前回:「寝起きの君は…」初のお泊まりデートの翌朝、彼のひと言に大パニックになり…
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「You just told me you wanted to give it a try for the in-house interpreter exam, right?(社内通訳のテストに挑戦したい…ってあなた今、そう言った?)」
上司のクレアにそう確認され、私が肯定の言葉を返すと、クレアの表情は残念だけど…と曇った。
「確かにあなたの英訳は的確だし、発音も聞き取りやすいから専門職を目指すのも良いと思うわ。でもうちのコミュニケーション室で求められるレベルを考えると…正直、今のあなたの英語力では厳しいでしょうね」
言いにくいであろう意見を率直に伝えてくれたことがありがたくて、私はできるだけ明るく、理解しています、と答えた。
この会社…製薬会社である私の職場には、外資系企業としては珍しいかもしれないけれど、“コミュニケーション室”という通訳職の専門部署がある。
現在のスタッフは10人程で、誰がどんな案件やプロジェクトを担当するのか、その都度適材適所に割り振られていくらしいのだが、その仕事内容は多岐にわたると聞いている。
アメリカの本社から来日して国際会議などに参加する重役陣の同時通訳をこなす…など表舞台に同行する役割があるかと思えば、
同じく本社から送られてくる指示…法務、マーケティング、時にはIT関連などの文書の翻訳、さらには日本のカスタマーサービスに寄せられたクレーム文を本社に送るための英訳作業まで。
つまり、医学や薬学などの製薬会社的な専門用語だけではなく、業務内容に合わせて多種多様な語彙と知識を増やさなければならない。
ハイレベルな語学力で社内外のコミュニケーションを円滑にする役割を担う部署…ということから、通訳室、などではなく、コミュニケーション室と名付けられている。…ということを入社前に各部署説明の1つとして聞いた。
その部署が、数日前に社内公募を告知した。
半年後に採用試験を実施するので、希望社員はエントリーして欲しいということだった。ただし、受験した社員がコミュニケーション室の求めるレベルに達することができなかった場合、社内からの採用はゼロで外部から優秀なプロの通訳が雇われるという。
私のTOEICスコアは750点。今コミュニケーション室に所属している人達には900点以上の猛者も数人いると聞いている。
コミュニケーション室が重要視するのはTOEICの点数ではないけれど…と前置きしてクレアは続けた。
「もし英語力の壁を突破できたとしても…タカラはコミュニケーションが得意とはいえないでしょう?コミュニケーション室に配属になれば、苦手だからって避けられなくなるけれど、その覚悟はあるの?」
クレアが本社から赴任してきて1年とちょっと。働く国の言語を使うことが礼儀だと普段は日本語を使うクレアが、思わず…と言った様子で熱のこもった英語になっている。その熱はきっと私への心配によるもので、私は感謝を覚えながら言った。
「確かに得意とは言えません。でも…このテストにチャレンジしてみたいんです」
......
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この記事へのコメント
やっぱり大輝は京子さんと上手くいってるんだね。ともみに食われないよう気を付けて😂 雄大と愛さんどうしたんだ? 来週が待ちきれない。
そんなみんなに、幸せになって欲しいと思う。
この連載が好きな方々も素敵なんだろうな