2024.08.03
アオハルなんて甘すぎる Vol.24前回:「元アイドルって、普通の仕事に就くのが…」美女が港区で夜な夜な飲む理由
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「一番お高いシャンパーニュを頼んでジャック・セロスが出てくるなら、この店、酒の趣味だけは悪くないねえ」
そう満足げに、うん、美味い、とグラスを飲み干したのは、西麻布の女帝と呼ばれている(本人はそう呼ばれるのを嫌がっているが)光江だ。
「あの気持ち悪いバカを帰しちゃったからさ。あの残された坊やには払えそうにもないし、ここは雄大、アンタのおごりね」
ほら次注いでよ、と空になったグラスを差し出された雄大は心の中で苦笑いしながら、ワインクーラーからボトルを引き抜く。
生産本数が少なくワイン愛好家に熱狂的なファンが多い、ジャック・セロス。その2016年ビンテージなら、小売り価格で20万円程。ここで飲むなら倍…もしくは3倍か。
雄大は光江に歯向かう気は毛頭なかった。安くはない出費だが、光江への借りを返す値段とするならば高すぎるとも思わない。それに。
― 恐ろしいんだか、優しいんだか。
気持ち悪いバカとは、みっともなく逃げ帰った後藤と呼ばれていた男のこと。そして残された坊やとは、宝をこの店に連れ込んだ大輝の幼なじみ、エリックのことだ。
きっと、光江はエリックの事業が失敗し、金に困っているということまで調べてここに到着したのだろう。だから、エリックには払えそうにもない、と言ったのだ。
光江の情報網の広さと収集スピードにいつもながらに驚きつつ、金に困っているエリックには支払わせないようにすることが、光江の“若者”への配慮だとすぐに気がつくくらいには、雄大と光江の付き合いは長い。
― まあ、この人が相当なケチなことも事実なんだけど。
雄大は光江のことが得意ではない。だが雄大は、自らを“食えないババア”と名乗る光江以上にこの街を守ろうとする人を知らず、その点においては敬意を抱かざるを得なかった。
「宝ちゃんって、お2人とは全く住む世界が違うように見えるんですけど…」
......
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で、後半!ダークな話なのに臨場感あふれる文章でもう圧巻としか言いようない。そして宝と大輝は友情、伊東さんと付き合ってハッピーエンドか? いや、終わらずずっと続いて欲しいこの連載だけは。
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