2024.06.29
アオハルなんて甘すぎる Vol.20大輝くんに声をかけたのは、華やかな2人組の女性だった。
― ナンパされてる…!女の子からのナンパって初めてみた…!
妙な感動を覚えて立ち止まったままでいると、女の子たちに反応してヘッドホンを外しながら顔を上げた大輝くんがこちらに気がついて、宝ちゃん!と手を振ってきた。
「今から彼女とデートだから。ごめんね」
そう言うと、呆気にとられる女の子2人を残して私の方へ来た大輝くんは、カジュアルな宝ちゃんもかわいいね、とほほ笑んだ。でも。『モツ鍋の匂いがついてもすぐ洗濯できる服がいいよ』という大輝くんのアドバイスに従って、ジーンズと、薄いグリーンの洗えるニット、それにダウンジャケットという、深く検討しきれていない格好なので恐縮してしまう。
行こう、と肩に手を回され進みながら、女の子の視線が痛くてちらりと見ると、2人の顔には“釣り合ってないんですけど?”とわかりやすく書いてあった。
うんうん、私もそう思ってます、ごめんなさい。でもこれ疑似デートなので本物の彼女ってわけじゃないんです!と心の中で謝って、女の子たちに軽く会釈をしてから、大輝くんに促されるままに店に入った。
案内されたのはキッチンを囲んでL字型になっているカウンター席の最奥。カウンターといってもそのテーブルは、鍋を置くための十分な幅があるゆったりとした作り。一組一組の席の間、隣のお客さんとの席の間合いは広かった。
店に入った瞬間から、我がソウルフードの1つである醤油味のモツ鍋の香りにやや興奮してしまっている。そのテンションのまま私は聞いた。
「やっぱり、ナンパってよくされるの?」
女の子からのナンパされている人を初めてみたことを素直に伝えると、正直よくあるねと大輝くんは笑った。ナンパされた子と遊びに行くことがあるのかを重ねて聞いた時、ノンアルビールが2つ運ばれてきて、乾杯をした後に答えてくれた。
「あるよ。友達といる時とかは友達に付き合ったりもするし、少し話して素敵な子かもって感じたら、もう少し一緒にいたらどうなるかなって思うこともある。ナンパだって出会いの1つだしね」
「…意外…」
思わずつぶやいてしまった私に、意外ってどういう意味?と聞いた大輝くんが、でもその前に注文しよう、とメニューを開いた。鹿児島や宮崎、佐賀といった九州の黒毛和牛の小腸とハツを使っているという“牛モツ鍋”を2人前、もちろん醬油味のスープを選び、キャベツを大盛にさせてもらった。
鍋の前にと、一口餃子と明太子の入った出し巻き卵も頼んでから、大輝くんが話を戻した。
「それで、なんで意外と思ったの?」
そう聞かれて素直に答える。
「ナンパが出会いの1つだと大輝くんが考えていることが意外だなぁって。ほら大輝くんはすごく…」
言いかけて言葉に迷ってしまった。超恋愛体質のロマンティスト。時にドロドロで濃厚な関係を築いていそうな大輝くんには、ナンパという言葉はすごくイージーで軽く感じられたからなのだけど。
「なんというか…もっとズドンと重い、重厚感のありそうな…運命の恋って感じの、そういうのをしてそうだから、大輝くんって」
伝えたいことをなんとか具現化したつもりだったけれど、大輝くんは、うーん、と首を傾げてから、ぐっと私の方に顔を向けた。
― 近い…!
カウンターでの横並びってこんなに近かったっけ。大輝くんと肩が触れ合いそうな距離というのは、愛さんや雄大さんとも一緒の時以外では初めてだと、今気がついた。気がついたらダメだったかもと焦っていると大輝くんが言った。
「たとえナンパであろうと、誰かを誘ったり告白したりするのってさ、割と勇気とか勢いのいることじゃない?だから、軽いとか重いじゃなくてリスペクトがあるというか。もちろん恋人とか、好きな人がいる時はさっきみたいにバッサリ断るけどね。冷たくするのも礼儀だと思ってるから」
なんか本題からズレちゃったけど、と笑った大輝くんが、そろそろ今日のテーマに入ろうよ、と笑顔の形を変えた。なんというか…艶めいた水気を含んだ視線…これがもしや…愛さんが「恐ろしい子よ」と言っていた、大輝くんの色気モードというやつでしょうか?
「今日は大人のデートの練習なので。オレ、宝ちゃんに色々しちゃうつもりだから」
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