アオハルなんて甘すぎる Vol.10

「中学生から海外留学へ行かせる」サイコパスな元夫からの強制。小学4年生の息子の本心は…

愛さんが誰に問うでもなく口にした。その視線はタケフミさんではなくタケル君に向けられている。ひどく苦しそうなその表情に、私の胸も苦しくなる。

「本宅だと両親もいるし、何かとギャラリーが多くなるだろう。お前を哀れに思った私の情けに感謝してもらいたい」
「…」

― この男、本当に、本当に、腹が立つ……!

まさにサイコパス。このままだと愛さんより先に私の方が怒りを爆発させてしまいそうだ。

「タケル、お前が選びなさい。昨日、お父さんが話したことわかるな?留学するかどうか」
「…」

タケルくんが黙ったままうなだれた。その様子にたえられないとばかりに、愛さんが口を開く。

「…タケル。大丈夫よ、こわいことなんて何もないから。タケルがイヤなことはしなくていいの。…ね?」

タケルくんが泣きそうな顔で愛さんを見た。愛さんの目から涙がこぼれた。それを見たタケルくんが一度うなだれ、しばらく沈黙が続いた。

その小さな拳がぎゅっと握られていることに、このサイコパスは気づいているだろうか?

隣に座っているのに、沈黙したタケルくんの方を見ることもせずに、なぜかこのタイミングで…サプリなのかクスリなのか、錠剤を取り出し飲み始めたその様子に、最も部外者である私が怒りに震えてしまう。

そして、次にタケル君が顔を上げた時、そこに涙の影はなく、自分を奮い立たせるような顔に変わっていた。

「…僕、留学します」
「…タケル…」

愛さんのその声は、弱々しく悲鳴のようだった。

「…ママ、ゴメンね…」
「……いいの、ママにごめんね、って言う必要はないの」
「お父さん、僕留学します。だから…ママをいじめないで…ください」
「……タケル…」

愛さんの言葉に嗚咽が混ざった。

― ひどい。辛すぎるよ

こんな小さな子が、母親を守ろうとしているのに。こんな父親がいてもいいの!?私は、タケフミさんを、強く、強くにらんだ。

「タケル、正しい決断だ。それからもう一つ。お前のママは、もうこの人じゃないと何度も言ってるだろう。一緒に住んで、お前の面倒を見てくれている人にきちんと感謝するように」

タケフミさんの言葉に、タケルくんが、あきらめたように、はい、とうなだれた。その、はい、を聞いた愛さんが、声を殺して涙をこぼす。

― 愛さん!なぜ、反論しないの!?

何も言わない愛さんに対して、私は出会って以来初めての苛立ちのようなものを感じていた。そして、思わず口にしてしまった。

「…あなたのやり方は…違うと思います」

サイコパスがこちらを見た。

「部外者が口をはさむんですか?」

ぎろり、とにらまれたけれど、勢いのまま言った。

「……タケルくんが本当は何を望んでいるのかを、きちんと聞いてあげてください」

私はこの時。

私のこの発言が…佐々木宝・28歳の誕生日を粉々に…最悪なものにしてしまうことを、知る由もなかった。


▶前回:「港区に住むなら、絶対知っておくべきコトは…」27歳女が触れてしまった、西麻布の闇

▶1話目はこちら:27歳の総合職女子。武蔵小金井から、港区西麻布に引っ越した理由とは…

次回は、4月13日 土曜更新予定!

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この記事へのコメント

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No Name
時間がないなら着替えてくるな!
本当だよ😆
2024/04/06 05:4543
No Name
いやいやー、愛さんどうしてこんな男と「間違った結婚」をしてしまったのだろろうか。 タケルくんを脅してまで留学させたい理由は? 不倫相手(継母)が厄介払いの為にサイコパスに提案した可能性もあるなぁ。
2024/04/06 05:4325
No Name
タケフミ、怖っ。組長か
2024/04/06 05:4617返信1件
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