報われない男 Vol.8

「恋がどういうものか、教えます」青森への出張中、37歳人妻に男がしたコト

「オレは京子さんが望むことをしたい。でもオレの気持ちが邪魔になるなら消えた方がいいとも思ってます。それでもできることを探してしまう。矛盾してるのはわかってるんですけど…」

― 矛盾。

確かに、人の思いと行動は矛盾に満ちている。京子を一番好きだと言いながら、美里に向かう崇も。そして、崇の言葉に打ちのめされたのに、彼の唯一という立場を手放す選択をしきれずにいる自分も。

結婚は恋だけでは成り立たないと人は言う。でも結婚を壊す恋が存在することも事実で、それもまた矛盾なのではないだろうか。

そしてまた思い出してしまう。子どもが欲しいと万年筆で書き、崇さんをくださいと訴えた美里の激情、そんな美里を崇が思わず抱きしめてしまったのも激情。

その激情は間違っていると、正々堂々と否定し闘うべきだったのかもしれない。妻という武器を使えば、ねじ伏せることもできたはずだ。

― でも…。

「そんな顔をしないでください」

そう聞こえて、気がつくと京子は大輝の腕の中にいた。そんな顔をされると…と言葉に詰まった大輝に、京子が顔を上げると視線がぶつかった。

「…京子さんの生活の邪魔も、京子さんを悪者にも絶対にしない」

だから、と背中に回った腕に力がこめられる。

「今だけ、オレの矛盾に流されて」

そして唐突に。2人の唇が重なり、京子は驚きで目を見開いた。

「……恋ってどんな感情なのか……オレにも難しいみたいです」

大輝が呟いたその時、大きな音をたてながら数台の大型トラックが通り過ぎ、そのライトが続けざまに歩道の2人を照らした。目を閉じたのはそのまぶしさのせいだと、京子は誰にするでもない言い訳を思った。


▶前回:「22時までに夜桜を見たい」地方出張中に上司を先に帰らせ、意中の彼女と…

▶1話目はこちら:24歳の美男子が溺れた、34歳の人妻。ベッドで腕の中に彼女を入れるだけで幸せで…

次回は、4月13日 土曜更新予定!

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この記事へのコメント

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No Name
時を戻せるならご主人の裏切りを止めたいです。オレの思いを伝えるチャンスが消えたとしても京子さんが傷つかない方がいい。
大輝の優しさに感動する。
2024/04/06 06:0445
No Name
毎週こちらの連載のレベルが高すぎます!
ライターさんを知る術はありませんか?他の作品も読んでみたいです・・!
2024/04/06 10:3830返信3件
No Name
を閉じたのはそのまぶしさのせいだと、京子は誰にするでもない言い訳を思った。

くぅ。。。やぱ、このライター、なんかいいわ
2024/04/06 09:2018
もっと見る ( 12 件 )

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