2024.04.15
オトナの5分読書 Vol.21さすがGoogle、本当にいい企業なんだなぁと、ため息をついた。ヒトは、発言をして嫌な思いをすると、やがて発言をやめてしまう。
「あのヒトに言っても、頭ごなしに否定されるだけ」「あいつに言っても、皮肉が返ってくるだけ」「結局、ネガティブな反応が返ってくるだけ」――上司であれ、同僚であれ、親であれ、パートナーであれ、そんな思いを何度かすれば、浮かんだことばを呑み込むようになる。
そうなると、なんとヒトは、発想そのものやめてしまうのである。脳は、1秒たりとも無駄なことをしない装置なので、出力しないのに演算したりなんかしない。
演算に使う脳神経信号も無駄だし、「言えないストレス」もまた、けっこうな無駄信号だからだ。
つまり、浮かんだ言葉を何度か呑み込んでいるうちに、そもそも何も浮かばなくなるのだ。
20世紀は、そんな新入りくんを指して「場になじんだ。彼も一人前になった」と褒められたが、21世紀には「アイデアの出ない、指示待ち人間」と呼ばれることもある。
否定とか、皮肉とか、いきなりネガティブなことを言うヒトは、チームの発想力を止めてしまうのである。発想力だけじゃない、発想力と同じ回路を使う危機回避力と自己肯定感まで下げてしまう。
これは「家庭」というチームにも言える。親がいきなりネガティブなことを言う癖があると、子どもの発想力が育たない。自己肯定感が低くなって、「いや、俺ダメだから」「私には無理だから」と発言するようになり、逃げ癖がつく。
20世紀は、製品やサービスの機能が単純だった。このため企業は、生活者の「車が欲しい」「掃除機が欲しい」という夢を実現すればよかった。
企業側にも夢を見る人材は必要だったが、そんな人材は1万人に1人いれば足りていた。多くの人間は実行力を望まれたのである。
そして教育の段階で「頭ごなしの決めつけ」をすると、脳は実行力を強める代わりに、発想力を失っていく。
21世紀は、製品やサービスの機能は複雑になり、家電1つ買ってもユーザーの想像を超える機能が付加されていたりする。電子機器なんて何年使っても使い切れない機能があるくらいだ。
では、いったい、誰が夢を見ているのか。「製品・サービスを提供する側」が夢を見る必要があるのだ。
企業人一人ひとりの発想力が企業価値を生む時代になっているのだ。当然、チームの発想力を止めてはいけない。となれば、心理的な安全性の確保は、企業のひいては社会の急務なのである。
Googleは、社員の発想力だけで、世界の巨大企業にのしあがった。そのGoogleが見つけた「心理的安全性」というキーワードは、時代の真実のど真ん中を射抜いているのである。
私は1983年の入社で、入社してすぐに言われたのは、「きみたちは歯車だ。小さな存在にすぎないが、歯車が1つ止まれば、組織全体が止まってしまう」という訓示で、当時の頭ではけっこう感動したのを覚えている。
「こうしろ」と言われたことを疑わずに、遮二無二邁進することで大きな組織を回すことに喜びを感じるセンスが、当時のエリートには不可欠だった。
そもそもエリートたちは、幼い頃から、母親の「こうしろ」に従って、お行儀よく高偏差値の大学を出て、一流の場所にたどり着いたので、それはお家芸のようなもの。末端の小さな歯車が、やがて大きな歯車になっていくのが出世街道だったのだ。
その20世紀の気分が、まだ家庭にも学校にも企業にも漂っている。親や先生や経営陣が「その時代の人たち」だからだ。
若い人たちが何か発言をしたとき、指導者が最初に口にする言葉が、「問題点の指摘」(ネガティブ発言)だと、若い人たちの脳は「問題解決型の回路」を活性化することになる。
これは問題点に素早く気づいて、さっさと対応するための回路で、「ゴールをかかげ、そのゴールに足りない能力やアイテムをゲットしつつ、ひたすら突き進む」パワーを脳にもたらす。
20世紀は、「問題解決型の回路」が必要だった。だから大人は、若い人の顔を見れば小言から言うのが習わしだったのである。
ところがこれが21世紀には、大問題となる。
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