2024.04.02
今日、私たちはあの街で Vol.8「ああ…今日は咲、来られないって。留学の準備で忙しいみたい」
克哉と咲が今でも連絡を取り合っている事実を嬉しく思いつつ、咲に会えないことがわかった誠一は落胆をあらわにした。
「そうか。せっかく東京に来たから顔を見たかったけど…。それにしても咲、海外に行くのか」
「学生時代から、行きたいって言ってたからなぁ」
「そういえば、そうだったな…」
会場設営を進める現役生を眺めながら、誠一は学生時代の在りし日を思い浮かべていた。
◆
「こんにちは〜。こちらのサークルって新入生募集してます?」
もともと咲は、新入生としてひとりで部室にやってきた。
父親に影響を受けた咲の音楽の趣味は渋く、好きなのはピンク・フロイドやイエスといったプログレッシブ・ロックと言われるジャンルだ。
趣味の合いそうなサークルがなく彷徨っていたところ、先日たまたま部室のベランダで、克哉がイエスの有名曲である『Roundabout』を弾いていたのを耳にして部室を訪ねたということだった。
むさ苦しい部室に新入生が訪ねてきたとあって、克哉は咲を喜んで迎え入れる。
「あの、みなさんと仲良くなりたくて…好きなケーキを持ってきちゃいました」
咲がおもむろに取り出したのは、シンプルな長方形のチョコレートケーキ。『Tops』という有名な店のケーキだという。これがえらく美味しく、甘いものにさほど興味がない誠一も一口、また一口と手が伸び、あっという間に完食してしまったことを覚えている。
それ以来、克哉と咲はすっかり意気投合し、克哉は咲にギターを手取り足取り教えながら、自分のバンドのギターボーカルに咲を立てるなどして、授業のない時間はほとんど一緒にいた。
克哉とバンドを組んでいた誠一も、必然的に咲と過ごす時間が増え、サークルメンバーからも「いつもの3人」と認識されるようになったのだ。
音楽の趣味の合う3人が、セッションだけでなく様々なアーティストのライブへ行ったのは数回のことではない。互いに好きなアーティストが来日するたびに誘い合って、しょっちゅう音楽談義を繰り広げたものだった。
数あるライブ会場のなかでも最も足繁く通ったのは、赤坂BLITZだ。
ライブが始まる前に、少し早めに赤坂サカスの『Tops』直営店に集まって、チョコレートケーキを食べる。それが、3人の定番だった。
誠一の目当てのアーティストはなぜだか赤坂BLITZでの公演が多く、「誠一くん『Tops』に行きたくて私たちのことライブに誘ってるでしょ」と咲によくからかわれたことを、今でも覚えている。
そんな日々は、咲が2年生に、克哉と誠一が4年生になった頃にも続いていた。
少し変化があったとすれば、克哉の咲への想いが、もはや公然の事実となっていたことくらいだろうか。
「咲!好きだー!!」
誠一たちにとって学生最後となるサークル合宿でも、克哉はライブ会場を駆け回りながら、咲への気持ちを叫ぶ。
しかし咲の方はというと、克哉のことを男性として見ることができないらしく、この日の告白は通算4度目の失恋に。それでも、3人の仲は変わらなかった。
授業の合間に部室のベランダで雑談をして、夜はライブや飲みに行き、スタジオに入って思う存分演奏をして、朝寝ぼけ眼で始発に乗って帰宅する。
残り少ないモラトリアムを、克哉という盟友、咲という可愛い後輩と燃え尽きるまで楽しむかのような日々は、誠一にとってかけがえのないものだった。
そんな咲から、卒業ライブの終演後の片付けの最中に耳打ちされたのは、思いもよらぬ言葉だった。
内容以上に ん? と思う箇所が多過ぎて。
例えば、
“卒業ライブの終演後の片付けの最中” とかはもう少しプロっぽい表現に出来なかったのかな。
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