2024.03.26
今日、私たちはあの街で Vol.7◆
新チームが始動して1ヶ月。ミッドタウン・ガーデンは鮮やかな新緑の季節を迎えていた。
朝から晩まで会議が詰め込まれ、どこへでも咲を連れてせわしなく行動する毎日。
会議室にこもりきりの日も珍しくなく、そんな日の美緒は、咲と連れ立って地下のパン屋さんやデリ店で軽食を調達し、揃って仕事へと舞い戻るのだった。
右も左もわからない咲を、業務過多の状況に追い込んでいることに美緒は負い目を感じていたが、咲はこの状況を成長の機会と捉え、徐々に現場に馴染もうと積極的な様子だ。
― でも…。
美緒は咲に持ち前の粘り強さや才能は感じるものの、仕事の段取りや意思疎通がスムーズでないことが気になっていた。社会人歴が短い上に、慣れない英語での会議が多いからなのかもしれない。
成果史上主義のこの会社では、別の会社の社員で、直接の後輩ではない咲の育成に時間を割くようなメンバーはおらず、咲が置いて行かれていてもフォローはない。
そんな空気を感じ取ってか、咲は力不足を気に病んでいるようだった。
しかし美緒は、自分のことを姉のように慕い、明るく前向きに学ぼうとする咲の姿勢を買っていた。
「咲さん。今日…実はお昼にダミーの会議入れておいたの。たまにはゆっくり美味しいランチ行こ!」
「ええ!嬉しい…行きましょう!」
美緒が選んだ店は、トリュフ料理の専門店『Artisan de la Truffe』。
本国フランスではパリの中心にほど近いマレ地区に、ブティックを併設した本店を構えている。
フランスの外食にしては良心的な価格帯で、駆け出しデザイナー時代の美緒のお腹と心を満たしてくれた、拠り所のような場所だった。
六本木で見つけたときは、日本では高いのかな…と思ったが、実際にはパリと変わらない価格帯でトリュフをたっぷり楽しむことができ、ホッとしたことを覚えている。
さらにはテラス席から四季折々のミッドタウン・ガーデンを眺められるとあって、このレストランは日本でも変わらずに、美緒の心の拠り所となっている場所なのだった。
「咲さん、1ヶ月ずっとバタバタでごめんね。本当に一生懸命キャッチアップしてもらって…感謝してる」
「いえいえ!みなさんにご迷惑おかけして…勉強させていただいてばかりで、申し訳ないです。早くお力になれるよう頑張ります」
「ありがとう。私もチームもまだまだ発展途上だから、一緒に頑張っていこうね」
それからもふたりはほぼ毎日、朝から晩までを共に過ごした。
会議室でチョコレートをつまんだり、仮眠を取り合ったり、ときにはカフェで休憩し、残業の合間に夜景を見に行ったり…。そんな日々の繰り返しでプロジェクトは過渡期に入り、季節は巡りゆく。
実力や年齢に差はあれど、向上心が根底にある美緒と咲は不思議とペースが合う。よい師弟関係を築いていると言えた。
暑く忙しい夏を乗り越え、心地よい秋風を感じられるようになった頃。成長を重ねる咲から、美緒の手が徐々に離れていく。
四面楚歌のような状況だった咲も徐々にチームに打ち解け、プロジェクトはうまく回り始めていた。
しかし美緒には、春からの数ヶ月間、ずっと悩まされていることがあるのだった。
【今日、私たちはあの街で】の記事一覧
2024.05.21
Vol.15
失恋がきっかけで、OLから外資系CAに転職した23歳女。ドバイに移住し待ち受けていたのは…
2024.05.20
Vol.14
男と女のストーリー。最後の舞台は表参道・オモカド「今日、私たちはあの街で」全話総集編
2024.05.14
Vol.13
38歳バツイチの外銀男。年収4,000万円でも15歳年下女に突然フラレた理由
2024.05.07
Vol.12
「結婚はムリかも…」34歳女が、6年付き合った年収4,000万の外銀男との別れを決断したワケ
2024.04.30
Vol.11
「あの子とは何でもない」と言い訳されたけど…。彼氏が他の女性と出会っていた28歳女の末路
2024.04.23
Vol.10
3回目のデートで、終電を逃した28歳女。翌朝、男が激しく後悔したワケ
2024.04.09
Vol.9
元カレと曖昧な関係を続ける24歳女…。思いを断ち切るためにしたコトとは
2024.04.02
Vol.8
慶應の音楽サークルで、三角関係に陥った男。親友の彼女を好きになってしまった結果…
2024.03.12
Vol.5
妻子を大阪に残して、東京に単身赴任中の39歳男。ある夜、紹介された年下美女と意気投合してしまい…
2024.03.05
Vol.4
上智の院まで出たのに、就活は惨敗。不本意な会社に内定し、働く前から転職を考え始め…
おすすめ記事
2024.03.19
今日、私たちはあの街で Vol.6
無意識にオトコを勘違いさせてしまう28歳女。上司から届いた、妙な親密なLINEの文面とは
- PR
2025.03.31
結婚1年目から、激務のせいでギスギス…。崩壊寸前のパワーカップルを救ったアイテムとは?
2018.02.01
東京就活事情
東京就活事情:「私、整形したんです」外銀セールスの内定を命がけで手に入れた、東大卒美女
2017.11.12
年内婚約 2017
彼氏が結婚してくれないなら、二股上等!婚活市場に舞い戻った女に訪れたチャンス
- PR
2025.03.31
えっ、あの“ミャクミャク”の部屋に泊まれる!?どっぷり万博に浸れる、いまだけのホテルステイとは…
- PR
2025.03.25
牛肉の本場・大阪で最高のステーキを! 極上の「アメリカンビーフ」を楽しめる珠玉の4軒
- PR
2025.03.26
春旅するなら万博でも話題の西日本へ!大人が満足する贅沢時間を過ごせるホテル4選
2018.09.27
美しいひと
「あの子より、君のほうが綺麗だよ」ハイスペ男の甘い囁きが呼び起こした、私の中の“黒い感情”
- PR
2025.03.27
7種類ものフレーバーが楽しめる! この春、台湾生まれのフルーツビールが話題!
- PR
2025.03.28
ほろ酔い美女の正体とは!?17LIVEの人気ライバー4人を、港区のバーにお連れしてみたら…
東京カレンダーショッピング
ロングヒット記事
2025.03.19
運命なんて、今さら
初めて彼のマンションを訪れた28歳女。しかし、滞在10分で、突然「帰りたい」と思った理由
2025.03.22
男と女の答えあわせ【Q】
「豊洲に住んでいる」と33歳男が言った途端に、デート相手の女が戸惑ったワケ
2025.03.23
男と女の答えあわせ【A】
「年収800万くらいでもいいかな…」相手に求める条件を妥協したつもりの30歳女の大誤算
2025.03.17
1LDKの彼方
「何もないって言われたけど…」彼氏が他の女と連絡を取っていたことが発覚。30歳女は思わず…
2025.03.20
TOUGH COOKIES
「幸せそうな彼女がなぜ?」SNSで悪質コメントの犯人を突き止めたら、意外な人で…
この記事へのコメント