アオハルなんて甘すぎる Vol.6

外資製薬会社に勤める27歳女性。社内評価の高い、売れっ子MRの元カレが最悪で…

男性と一緒に下着を選んだ経験などない私は、なんだかソワソワしてしまうが、店内にはカップルの客も多く、愛さんも全く気にしていないようだった。

愛さんが選ぶ下着は、もうイメージ通りというか、美しいけれど、どうやってつけるの!?という、パットが無い&透け透けレースのブラジャー(三角ブラというらしい)やショーツ、黒レースのボディースーツや、シルクのキャミソールドレスなどで。

「私が私のテンションを上げるための下着なんだから、男の好みなんてどうでもいい」

そう言い切るのが愛さんらしい。店内には50、60代であろう、フランス人マダムも多くて、彼女たちも愛さんと同じ気持ちで下着を選んでいるのかな、と思ったりした。

宝ちゃんのサイズは?気にいったのがあれば試着してみようよ!と言われても、店内の華やかなラインナップに怖気づいてしまい、私は首を激しく横に振った。

愛さんは、豪快なスピードで試着を繰り返し購入品を決めた。その会計を待つ間に、大輝くんが言った。

「宝ちゃん、このブランド《オーバドゥ》っていうらしいんだけど…オーバドゥ、って愛する人と夜を過ごした翌朝に《恋人を恋しく思う朝の詩》からきてるんだって。夜を過ごした恋人たちをイメージしたランジェリーなんて…めちゃくちゃ良くない?エモくない?」

― あ、絶対《キョウコさん》のこと思い出しちゃってる。

「大輝。今、自分の彼女のことを思い出されてもキモイ。そのうっとり顔、エモいというよりキモイよ。めちゃくちゃキモイ。ほら見て宝ちゃんの顔。フリーズしちゃってるじゃん」

「愛さんひどい。宝ちゃんはそんなこと思ってないよね」と大輝くんに聞かれたけれど、「ごめん…正直、ちょっと気持ち悪かったかも…」と正直に言ってしまった。

それでも「オレもお土産に買って行こうかな…」とめげない大輝くんに、付き合って間もない男に下着もらうの気持ち悪いよ、と愛さんが突っ込む。

愛さんにとって許せないはずの不倫の恋。それでもなんだかんだとお土産の相談にのってあげている、その愛さんの優しさに、2人の友情の深さを感じてほほえましくなった。

ランジェリーを満喫した後、直接空港へ。タクシーを呼んだ大輝くんが私のためにと、エッフェル塔の傍を通るルートを設定してくれて、密かに心残りだったエッフェル塔も至近距離でバッチリ見ることができた。

こうして弾丸パリ旅行は終わった。昨日の午後羽田に到着し、私は今日から日常に戻っている。今日2本目の会議が終わり、その会議室を出る時、クレアに呼び止められた。


「タカラ、ヒアリングの希望日時の提出、明後日締め切りだからよろしくね」
「はい」
「タカラもそろそろ本気でキャリアップを考えてみたら?」

― キャリアアップ。

それはこれまでにも、何度かクレアに言われてきたこと。クレアの言うヒアリングとは3ヶ月に1度、クレアと部下との間で行われるもので、異動したい希望部署はないか、今後の目標設定は?などを聞かれるいわゆる人事に関係する面接のことだ。

クレアからは、タカラは真面目でミスもないし、丁寧で信頼できる。でも、将来どうしたいのかというビジョンは全く見えてこない、と毎回指摘を受けている。

― 将来の目標って…どうやったら見つけられるんだろう。

この記事へのコメント

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No Name
神様!仏様!大輝様!!!!
タカラちゃんかわいいね。
2024/03/02 05:2967返信3件
No Name
弾丸パリ旅行、行きたくなりました。
この連載はお話の内容も面白いし、きらりと光る表現や文章がとても魅力的! どんな素晴らしい作家さんが書いているのだろう…
2024/03/02 05:3253返信1件
No Name
読み応えあり
2024/03/02 05:5231
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