2024.02.10
アオハルなんて甘すぎる Vol.3
前回までのあらすじ:失恋をきっかけに、武蔵小金井から港区西麻布に引っ越した宝(27)。西麻布のバーで出会った愛に気に入られ、急遽フランス旅行に一緒に向かう。これまで経験したことのない遊び方にためらいながら、自分を変えていこうとする。
◆
「え!?みんなで同じ部屋に泊まるんですか?」
「あれ、言ってなかったっけ?ごめんごめん。正確には、同じ家にみんなで泊まる、だけど」
フランスのシャルル・ド・ゴール空港からパリ中心街に向かうタクシーの中。海外に着いた実感がまるでない、不思議な、ふわふわした感覚の中でうとうとしかけていた私は、愛さんの言葉に驚いて目が覚めた。
「みんなってことは、雄大さんも大輝さんもですよね」
「でも大丈夫。部屋はバラバラだし、トイレもお風呂も2つずつあるから、女子用、男子用、ってわけられるし」
「はぁ…」
「安心して。男と女、みたいなことには絶対ならないから」
「はい…」
「飛行機だけ私と同じ便をとってくれれば、泊まるところは大丈夫。私と同じ所でよければ、宿泊費はいらないし!」と言われていたので、甘えてお任せしていたのだが、まさか男性2人も一緒だとは、思ってもいなかった。
“まだほぼ他人”の男性たちと一緒に泊まるけど、部屋が違うからOK!と思えるほどの男性免疫が私にはないのです…!と愛さんに訴えたくなったが、これが大人の男女の友情ってやつなの?と思ったりもして、私は覚悟を決めた。
窓の外を流れていくのは、フランスという響きから連想する古き美しい景色ではなく、時折見えるマンションなどの建物は近代的で単調だった。けれど、中心街が近づくと徐々に景色が変わっていくよ、と愛さんが教えてくれた。
私にとってフランスは2回目。でもほぼ初めてと言っていいと思う。卒業旅行で、友香とスペインに行った帰りに、ルーブル美術館へ。1日かけて回り、一泊した翌日には日本へ帰国した。
幼い頃からヨーロッパに行き慣れている友香なら、リッチで優雅な旅が当たり前のはずなのに、バイトで卒業旅行費を捻出した私に合わせた学生値段の旅プラン。
友香のさりげない気遣いと優しさに、どんな教育をしたらこんないい子に育つのかな…と会ったことのない友香のご両親に感謝したい気持ちになったのを今でも覚えている。
「宝ちゃん、着いたよ~」
愛さんの優しい声に、自分が眠ってしまっていたことに気がつき、慌てて降りる。その瞬間吹き付けた風が冷たくて、私はコートのボタンを留めて、首元のストールをきつく巻きなおした。
荷物を降ろしてくれた運転手に「メルシー!」と言った愛さんをマネして、メルシーとつぶやいてみると、運転手はウィンクと言葉を残して去って行った。愛さん曰く、よい1日を、と言ってくれたらしい。
「このアパルトマンを借りてるんだけど」
「ここに泊まるんですか?」
「うん、5階だって。住人は雄大の友達。今はバカンスで海外だから好きに使っていいって言われてるみたい」
アパルトマンとか、バカンスとか、耳馴染みのない優雅な響きがむず痒くて、ソワソワしながら、アパルトマン、を見上げる。これぞパリ、というエクリュ色、石造りの建物で、窓の数からすると多分5階は最上階。1階にはテラス席がずらっと並んだカフェがあった。
パリの11月はもはや真冬だよ、と愛さんが言っていた通り、東京よりかなり寒い。
それなのにテラス席は満席。手を絡めあいキスをしている(しかも熱烈に)カップル。ワインを片手にたばこをくゆらすマダム(60歳を超えているかもしれない)はミニスカートで赤いハイヒール。
人、そして街が放つ色気にあてられて、ようやく海外にいる実感がわいてきた。
「雄大に暗証番号を教えてもらっているから、部屋に上がろう」と、愛さんが1階のインターホンにある番号ボタンを押すと、大きな鉄格子が嵌められたドアが開いて中へ入る。
かわいいけれど、ずいぶん古いのだろうな、という小さなエレベーターに乗りこむと、ギギギギギギ、と、壊れてる!?という音と共に、5階へ。「エレベーターがあるだけラッキーよ」という愛さんの言葉で、パリにはエレベーターがない建物も多いことを知った。
「うわぁ…」
......
読むことができます
最近の東カレにしてはずいぶん凝ってるというか、気合い入ってるね。しかも両方面白い!
良いねぇ🥺🥺
【アオハルなんて甘すぎる】の記事一覧
2024.09.21
Vol.32
「理想を掲げなくてどうするんだい?」恋人と仕事との狭間に揺れる29歳女性が出した結論とは…
2024.09.20
Vol.31
この街に戻れば、私たちはいつでも青春を取り戻すことができる…。「アオハルなんて甘すぎる」全話総集編
2024.09.14
Vol.30
「合格した人が妬ましい…」28歳女性に初めて芽生えた“欲”に、男友達がかけた意外なひと言とは
2024.09.07
Vol.29
「キャリアに迷って…」28歳女性が、難解な社内公募に挑戦。影で支えるありがたすぎる彼の存在とは…
2024.08.31
Vol.28
「寝起きの君は…」初のお泊まりデートの翌朝、彼のひと言に大パニックになり…
2024.08.24
Vol.27
「“うらやましい”は、ヒント」女性がデート中に惚れ直した、男が語る人生教訓とは
2024.08.17
Vol.26
「勝負デートに向けてプレゼント♡」28歳女性が、年上の女友達からの贈り物を開けて仰天した理由
2024.08.10
Vol.25
「本物かどうかなんて、他人は興味ない」元カノの恨みが加速し、SNSで流出した“ある写真”とは…
2024.08.03
Vol.24
「資産家の家に生まれたお前が、ずっと妬ましかった…」幼稚舎からの親友だった男2人の縁が切れた瞬間
2024.07.20
Vol.23
「元アイドルって、普通の仕事に就くのが…」美女が港区で夜な夜な飲む理由
おすすめ記事
2024.02.03
アオハルなんて甘すぎる Vol.2
「別れ際のハグ」に深い意味はあるのか?イケメンからの突然の抱擁に、27歳女は動揺し…
- PR
2024.11.20
銀座で女性と過ごす夜。アイリッシュウイスキーが引き寄せた、2人だけの密やかな高揚とは
2019.04.21
羽田空港STORY
羽田空港STORY:絶対パイロットには恋しないと誓っていたのに。競争率数百倍の、女たちの争奪戦
2020.02.08
オトナの恋愛論~宿題編~
こんなに相性バッチリなのに!?金曜22時からの誘いに乗った女を待ち受けていた、残酷な結末
- PR
2024.11.18
総勢100名に当たる!西友&東急ストアで「スプリングバレー」を買って東カレ厳選グルメをもらおう!
- PR
2024.11.21
クリスマスは絶景を望むホテルデートへ!彼女がワッと喜ぶ、とっておきの夜を丸の内で過ごすなら…
- PR
2024.11.22
渋谷在住の29歳OLが自分へのご褒美に♡と、奮発したあるモノとは?
2019.11.23
【大ヒット御礼】煮沸 第二章
このアルバムを決して開くな。そこにある過去を知った者はやがて…必ず消えていく。
- PR
2024.11.22
2024年の締めくくりはこれで決まり! 美味でゴージャスな「アメリカンビーフ」を楽しめるステーキハウス4選
2021.07.24
婚活アポ~27歳ワセ女の場合~
婚活アポ~27歳ワセ女の場合~:「今年こそ、結婚!」年収800万・高学歴女の悲惨な婚活事情
東京カレンダーショッピング
『佐藤養助商店』:門外不出の技による、喉ごし滑らかな"稲庭干饂飩"
『かに物語』:ふっくらと肉厚な一本爪が2本入ったフレンチカレー
『西岡養鰻』:特製タレ付き!脂の乗った高品質な鰻を土佐備長炭で丁寧に焼き上げた蒲焼
『マルヒラ川村水産』:ご飯に載せて贅沢いくら丼!1粒1粒に旨みが凝縮された、とろける食感の北海道函館産天然いくら
『North Farm Stock』:北海道産ミニトマト使用!糖度が高く、コクとうまみがたっぷり詰まったトマトジュース
『ル・ボヌール 芦屋』:フリーズドライフルーツにホワイトチョコがたっぷりと染み込んだ新感覚スイーツ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
この記事へのコメント