2024.01.19
SPECIAL TALK Vol.112
子どもの頃から抱き続けた異文化への強い興味
金丸:早速ですが、村雨さんはスウェーデンのどちらでお生まれになったのでしょう?
村雨:一番南部のマルメという田舎町です。デンマークの首都、コペンハーゲンと橋でつながっています。
金丸:ということは、スウェーデンの首都ストックホルムよりコペンハーゲンの方が近いんですね。しかし、北欧と日本はかなりの距離がありますが、何がきっかけで日本に興味を持ったのですか?
村雨:根本的な話をすると、小さい頃からスウェーデンやヨーロッパから出てみたかったんです。
金丸:好奇心旺盛だったんですね。最初から「日本に行きたい」と決めていたわけではなかったと?
村雨:そうです。ただ、漠然と「行くならアジアかな」と思っていました。歴史が好きで、ヨーロッパとは違う文化を持つ国に行ってみたい、という気持ちが強かったので。
金丸:では、アジアの中でも日本を選んだ理由は?
村雨:中学生のときの世界史の授業で、日本の戦国時代が取り上げられたんです。
金丸:スウェーデンの授業で、戦国時代が取り上げられるんですか!?
村雨:ちょっとだけですけどね。でも、紹介されている日本の歴史や宗教を学んで、すごく興味を引かれました。高校では、自分で好きなテーマを選んで研究する授業があったので、僕は日本を研究することに。そこからどんどんハマっていきました。
金丸:自主性を重んじる教育が、村雨さんを日本マニアにしていったんですね。でも、日本の歴史について書いているスウェーデンの本って、ほとんどなさそうですが。
村雨:おっしゃるとおりです。ちょうどインターネットが普及してきた頃だったので、パソコンで調べることができて本当に助かりました。といっても、スウェーデン語で書かれている本はほとんどないので、英語の資料が多かったですけど。
金丸:スウェーデンの公用語は、スウェーデン語ですよね。英語も勉強するんですか?
村雨:はい。割と早い時期から第二外国語として英語を学びます。さらに第三外国語として、フランス語かドイツ語を選ぶんですが、僕はその頃には完全に日本にハマっていたので、日本語を勉強していました。スウェーデン語と日本語の辞書がなかったので、いつも英和辞典を持ち歩いていましたね。
金丸:それが高校生の頃。すごい熱意ですね。
村雨:島国で歴史が長くて、独特な文化を持っている日本にいつか行ってみたい、という一心です。
金丸:ちなみに、戦国時代で好きな人物は?
村雨:三英傑、特に徳川家康です。
金丸:まさか三英傑という単語を聞くとは(笑)。語彙もイントネーションもレベルが高くて、いままでお会いした外国出身の方の中で一番違和感がありません。最初の挨拶のときから、立ち居振る舞いも日本生まれの人とまるで変わらない。
村雨:ありがとうございます。庭師の修業時代にきっちり叩き込まれましたから(笑)。
たまたまたどり着いた庭師が天職だった
金丸:村雨さんが最初に日本に来たのは、いつですか?
村雨:高校生のときに短期間のホームステイをして、ますます日本が好きになりました。それでアルバイトでお金を貯めて、高校卒業後に来日しました。19歳のときです。もう16年前になりますね。
金丸:そんなに長いこと日本にいらっしゃるんですね。日本に来て、すぐに庭師にたどり着いたんですか?
村雨:いえ、最初は名古屋の外語学院で英語とスウェーデン語の講師として働きました。ただ、もっと日本の文化に直接触れられるような仕事がしたかったので、ずっと講師をするつもりはなくて。それに、ヨーロッパにもかつて徒弟制度がありましたが、日本の伝統的な職業の「弟子入り」制度に憧れていたんです。
金丸:日本人でも、「弟子入りなんかしたら自由が制限されそう」と敬遠してしまいそうですが、村雨さんは日本文化にどっぷり浸かりたかったんですね。
村雨:社寺建築に興味があったので、宮大工もいいなと思っていましたが、大工としての経歴がないと難しいため諦めました。どうしようか悩んでいたとき、たまたま見た求人誌で、僕の家の近所の造園屋さんがワンシーズン限りのアルバイトを募集していて、面白そうだなって。
金丸:やってみて、どうでした?
村雨:「これは自分の天職だな」と感じたんです。残念ながら、そこにはすでに兄弟子がいたので、これ以上、人は雇えないと弟子入りは叶わなかったんですけど。
金丸:それって、10年以上前のことですよね。日本の伝統産業には保守的な部分があるだろうし、就職先を見つけるのは大変だったのでは?
村雨:そうですね。いまではそういった分野で働く外国人も増えてきましたが、当時はかなりの件数断られました。最終的には同じ愛知県内で、植木の産地でもある西尾市の加藤造園さんに受け入れてもらいましたが、やはり最初は心配されましたよ。
金丸:それは言葉の問題ですか?
村雨:はい。その時点で日本に5〜6年住んでいたので、日常会話は問題なかったのですが、弟子として迎え入れて、ちゃんと日本語でコミュニケーションが取れるのかと。
金丸:庭師特有の専門用語もあると思いますが、でもそれは杞憂だったわけですね。加藤造園では何年働かれたんですか?
村雨:5年です。親方のもとで働き、庭師として日本文化に深く関わるうちに、この国で一生、こういうかたちで生きていきたいと考えるようになりました。
金丸:庭師って一年を通じて自然と触れ合うから、日本の四季の素晴らしさも身をもって感じたのでは?
村雨:庭のある家で暮らすと、なおさら四季を感じられて素晴らしいですよ。スウェーデンにも四季はありますが、日本ほどはっきりしていません。夏は短いけど、北海道以上に涼しくて過ごしやすい。でも春と秋は何となく寒くて、冬は寒過ぎる(笑)。全体的に四季がぼんやりしています。
金丸:最近の日本の夏は異常な暑さですが、スウェーデン生まれの村雨さんにとって、過酷すぎたりしませんか?
村雨:実は、庭師の修業時代に何度も熱中症で倒れました。だから、夏の仕事はちょっと減らしてます(笑)。そのぶん、年末は結構忙しいですね。
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