SPECIAL TALK Vol.109

~世界で一番愛される字を書きたい。世界を舞台に活躍する書道家へ~


書道が楽しいからオンもオフも関係ない


金丸:お話を伺っていると、相当お忙しいのでは?

青柳:私は多分マグロと一緒で、動いていないと死んじゃうんです。母からは「あんまり忙しいと良い字が書けないから、これ以上は詰め込まないで。丁寧なお仕事をしなさい」と言われています。

金丸:1ヶ月でオフタイムはどれくらいあるんですか?

青柳:月に1回、どこかにリフレッシュに行けたらいい方ですね。毎日起きてから寝る直前まで、ずっとアトリエにいます。しかも、ものすごくショートスリーパーで睡眠時間も短いんです。とにかく書道に向き合っていたい。

金丸:オフとオンの境目がないような感じですか?

青柳:むしろ、スイッチが壊れちゃっているような(笑)。

金丸:アトリエにいる時間は、ずっと書いているんですか?

青柳:書いたり、パソコンで作業をしたりしながら、ひとりで過ごしています。ひとりが好きなので(笑)。

金丸:パフォーマンスの構想を練ったり、練習したりするのもアトリエですか?

青柳:そうですね。パフォーマンスは勢いが大事と思われるかもしれませんが、私はしつこいくらい準備して臨みます。母に「もうええやろ」ってちょっと怒られるくらい。

金丸:周りに何を言われても、本人が「もうこれ以上ない」と思えるまでこだわるからこそ、感動が生まれるんだと思います。

青柳:作品づくりも150枚書いて、結局1枚目が一番良かったりすることもあります。正直、「ガーン」ですけど(笑)。でも1枚目はなかなか超えられない。

金丸:でもそれって1枚書いて、「これでいいだろ」とは明らかに違うじゃないですか。ああでもない、こうでもないと試行錯誤を繰り返すうちに、最初の直感が正しいことが証明される。

青柳:たしかに。決して無駄なんかじゃなくて、選んだ1枚には150枚分の重みがあるというか。でも、いつも納期ギリギリまで「やっぱりこっちがいいかな」「でも、もっとこうしたい」とやっているので、どんどん分からなくなってしまって最後に泣く、というのがお決まりなんです(笑)。

金丸:泣いちゃうんですか?

青柳:アトリエにいるときは、あまり見られたくないですね。ひとりで泣くし、めっちゃひとりごと言ってます(笑)。

金丸:VR書道を手掛けようと思ったのは、何がきっかけで?

青柳:以前からVRに興味は持っていました。そしたらあるとき、VRのクリエイターさんがテレビに出ていて、「すごい!私もやりたい!」と。テレビを観ながら、その方をSNSで検索してすぐ連絡を取って、東京まで会いに行きました。

金丸:展開が早過ぎる(笑)。

青柳:「書道家です!VRもやってみたいんですけど、一緒にやりませんか!」って。

金丸:そんな勢いで来られたら、断れないでしょうね(笑)。

青柳:突然にもかかわらず、すごく親切にしてくださって。何も分からない私に、パソコンからゴーグルから全部教えてくれて、さらに詳しい方まで紹介していただきました。

金丸:至れり尽くせりですね。パソコンはかなり性能の高いものが必要じゃないですか?

青柳:はい。軽自動車みたいな値段がするので、びっくりしました。

金丸:藤井聡太さんも将棋の研究のために、超高性能のパソコンを使っています。アートや競技の世界でも、いかにうまくコンピュータを活用するかが鍵を握る時代ですね。VR書道と普通の書道は、どんなところが違いますか?

青柳:VRはいろいろな演出ができるのがいいところです。ただし、紙に書くのと同じ感覚だと、全然美しくならないんですよ。今は夜な夜な、いかに360度全体で美しい文字を書けるかを練習しています。

金丸:書道パフォーマンスをテレビで何度か観たことがありますが、これまでは一方通行でしかなかったように思います。それがVRになると、双方向のやりとりも可能になるのでは?

青柳:きっとすごく楽しいと思いますよ。最近は海外で書道パフォーマンスを披露する機会も増えてきたので、いずれはエンターテインメントの本場、ラスベガスでやってみたいですね。そのためには、ひとつのエンターテイメントとして成立するように、書道パフォーマンスをもっと洗練させたいんです。VRはきっと大きな武器になると確信しています。

金丸:海外の人は、日本人とは受け止め方が違いますか?

青柳:最初は絵として捉えられることが多いです。書き上げたあと文字の意味を説明すると、もう一度感動してもらえます。アルファベットって、たとえば「A」自体に個別の意味はないので、漢字そのものに意味があることを知って驚かれますね。

金丸:だから書道パフォーマンスは、単なる字を書いているわけじゃない。文字自体がアートというか、メッセージというか。

青柳:素晴らしい俳句を読むと、すーっと情景が思い浮かぶじゃないですか。そういう感覚を書で表現できるようになりたいです。

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