2023.10.17
東京ご近所探訪 Vol.31東京はエリアが変われば、街の色が変わる。それぞれの街が特徴的なのは、住人の個性によって変化するからだ。
東カレが、街に住まう人々やレストランを徹底取材して、その個性をご紹介しよう。
今回は、大きな公園を中心に発展を遂げた緑あふれるエリア「駒沢」に注目!
東京の街の個性を徹底調査する連載「東京ご近所探訪」。過去にご紹介した街も、要チェック!
今月のエリア【駒沢】
今回取り上げる「駒沢」は、東急田園都市線で渋谷から3駅、約10分の駒沢大学駅を中心にしたエリア。
「駒沢オリンピック公園」と「駒澤大学」を囲むように、閑静な住宅街が広がる。
R246をはじめ幹線道路沿いには高いビルが立つものの、路地に入れば高さ制限のある住宅専用地となるため、一軒家や低層マンションが立ち並ぶ。学生向けのアパートが多いのも特徴だ。
多くの人が住みたいと憧れる緑豊かなエリア
現在「駒沢」と認識されているエリアは、住所でみると、世田谷区駒沢1〜5丁目、上馬3、4丁目、野沢4丁目、弦巻2丁目、目黒区東が丘1、2丁目まで。
北は弦巻通り、東は環七、南は駒沢通り、西は駒沢公園通りの少し西側までのエリアになる。
「古くからの住人にとっては、“駒沢”と言えば駒沢1〜5丁目と駒沢公園のこと。上馬や野沢、東が丘などまで広がったのは、駅が駒沢の中心地より東にできたからなんです」と、駒沢で40年以上、不動産業を続けてきた「城南商事」の今西三郎代表は言う。
もともとR246には「玉電」の愛称で親しまれていた路面電車が走っており、駒澤大学に近い「駒沢」の交差点にあった駒沢電停を中心に街が発展していた。
ところが、田園都市線(旧・新玉川線)が開通する際、新駅ができたのは渋谷寄りの「真中電停」付近。街の成り立ちと駅の立地にズレが生じた結果「駒沢エリア」が広がったのだ。
駒沢大学駅からほど近い場所で、24年前から山口 茂さん、千鶴さんご夫妻が営んでいる『タイカリー ピキヌー』。駒大の学生から近所に暮らす著名人まで、多くの人が通う人気店だ。
「今でも、駒沢は駒沢公園と駒澤大学の街ですよ。昼間は学生さんが多いし、休みの日には公園を目指して遠くから来る人も大勢います」と茂さん。
『タイカリー ピキヌー』
山口さんご夫妻が何年にもわたってタイに通い、現地の味を再現したカレーは、スパイスやハーブが効いたやみつきになる味。
グリーンカレー、レッドカレーも人気だが三宿在住の弊誌編集長も日本一と推す「カントリーカリー」(1,000円)も必食。
◆
週末に車で公園を訪れる人たちの中には、「できれば駒沢で暮らしたい」と考える人も多いが、物件の少なさゆえハードルは高い。
千鶴さんも「ひと昔前までは農地もたくさん残っていて、今よりもっとのんびりしていました。おっとりしていて親切な方が多いのも、長閑な雰囲気が残っているからかもしれません」と言うように、駒沢公園と緑の多い街並みが「駒沢」のゆるい空気感を醸成しているのは間違いない。
パークサイドに広がる“コマックリン”的文化
駒沢公園の求心力は、とにかくすごい。
「朝夕に公園内をウォーキングしたり、ジョギングをしたり。日常の暮らしの中に大きな公園があるのは豊かだと思います」と駒沢で生まれ育った住民は言う。
「結婚しても、駒沢を離れたくない」と、子どもが独立した後、二世帯住宅に建て替えるケースも多いそう。
「人気の街ですが、長年住み続ける人が多いので、ファミリー向けの物件はなかなか出てこないんです。マンションも戸建ても築50年近いものが多く残っていて、新しい物件も少なめです」と城南商事の今西さん。
「緑に囲まれた公園のある暮らし」を求めるアッパー層なら、駒沢に隣接する高級住宅街、深沢も選択肢に入ってくる。駒沢公園の南端に接するように立つ「深沢ハウス」も人気だ。
とはいえ、深沢エリアも物件の絶対数が少なく、競争率は高い。
「駒澤大学」の正門前にあるベーカリー『glouton』のオーナー、杉本秀之さんは「駒沢を一言で表現すると“不思議な街”。公園を中心に、いろんな人が暮らしています。毎朝、散歩の帰りに立ち寄ってくださる方が多いので、朝9時までが一番混むんですよ」と語る。
求められるのは、安心できる材料を使っていることと、美味しいこと。
昨年、材料費が高騰したため値上げをしたが、値段を気にして買い控えるようなことはなかったという。
『glouton』
住民に人気のベーカリー。
朝7時には、総菜パンやサンドイッチ、デニッシュなど80種を超えるパンが並ぶ。
◆
駒沢のイメージは、1997年、空間プロデューサーの山本宇一さんが『バワリー・キッチン』をオープンしてから大きく変わった。現在の空気感があるのは、山本さんの存在があってこそ。
駒沢公園通り沿いにあるアメリカンテイストのカフェ『PRETTY THINGS』で、山本さんにお話をうかがった。
「ニューヨークのセントラル・パークやロンドンのハイド・パークの周辺には、いろんなお店があって老若男女を問わずいろんな人が集まっています。ところが駒沢にはこんなに素晴らしい公園があるのに、お店はあまりありませんでした。それで『バワリー・キッチン』を作ったんです」と山本さん。
思惑どおり、ミュージシャンやアーティストに支持され、駒沢公園通りを中心に、自由な空気が広がっていった。
『PRETTY THINGS』をオープンしたのは10年前。バワリーで食事をした後、コーヒーを飲んだり、音楽を聴きに行ったりする店が欲しい、と考えた店だった。
「パークシティーの魅力は多様性。面白い店が一軒だけあっても、カルチャーは広がっていきません。
食があって、洋服があって、音楽があって、パーツがそろったからこそ、駒沢はいいフィーリングの街になったんだと思います」
『PRETTY THINGS』
店名には誰もが「自分にとってのかわいいもの」に出合える店、という意味が込められている。
自家焙煎のコーヒー(400円~)やキャロットケーキ(500円)などが楽しめる他、マグカップ(各1,800円)やTシャツ(3,000円~)をはじめオリジナルグッズも人気。
◆
山本さんは環七をNYのイーストリバーに見立て、駒沢にブルックリンを重ねる。
「コマックリン、って呼んでるんですよ」
老いも若きも、やりたいことを自由に選びながら暮らせる街。
それが駒沢の最大の魅力なのだと気づかされた。
駒沢の地で17年続く名店。街の人々と一緒に歴史を刻んできた、“愛されビストロ”がこちら。
駅から徒歩3分という立地の『bistro-confl.』は、大人のための隠れ家のような店だ。
閑静な住宅街にあって、「たまたま通りかかって入ってみた」などという客は、まずいない。
クラシカルなフランス家庭の味を求めて、何度も通いたくなる
「上質な料理やサービスを知っている方々に、心地良く食事を楽しんでほしい」と話すオーナーソムリエの倉田俊輔さんが貫いてきたのは、かしこまり過ぎず、ラフ過ぎない“ちょうど良さ”。
阿部兼二シェフはアンチョビやパンチェッタ、ブリオッシュなども自家製にこだわり、日本らしい四季の食材を取り入れながら腕を振るう。
ヒレとロースをバラ肉で巻き、カリッと焼いた「仔羊のロースト」4,400円。
きのことマスタードのソースも美味。
「前菜盛り合わせ」3,300円。
スペシャリテの「馬肉のタルタル ビーツのサラダ」2,200円。
シェリービネガーに漬け込んだ穂紫蘇やケッパーで酸味をプラス。料理は2人分が基本なので、1人分ずつサーブされる。
シンプルでクラシックな料理と絶妙な距離感のサービスは、地元住民でにぎわうパリのビストロをほうふつさせる。
コースでも、アラカルトでも楽しめるので使い勝手も抜群だ。駒沢の人々に愛されてきた味を、ぜひ堪能してみて。
店の奥には、ワインセラーを兼ねた個室がある。
フランスのナチュラルワインを中心にしたラインナップで、ボトル 6,600円~。グラスワイン(1,100円~)も10種類以上用意している。
■店舗概要
店名:bistro-confl.
住所:世田谷区上馬4-3-15 1F
TEL:03-3419-7233
営業時間:【月・水~金】ランチ 11:30~(L.O.14:00)
ディナー 18:00~(L.O.22:00)
【土・日・祝】ランチ 11:30~(L.O.14:00)
ディナー 17:30~(L.O.21:00)
定休日:火曜、第一月曜
席数:カウンター7席、テーブル14席
地元住民はもとより、他の街からも人が訪れる。そんな食通も認める焼き鳥店が、オープン以来人気を集めている。
センス溢れる空間で焼き鳥を堪能するのがこの街のスタイル
駅周辺は路地に名店が多い。駒沢公園口から徒歩1分。
『焼鳥 せきや』があるのも、前述した『タイカリー ピキヌー』や、ナチュラルワイン好きが集うワインバー『ミャンカー』などが並ぶ横道だ。
2019年11月のオープン当初は梅ヶ丘の名店『やきとりShira』の姉妹店として注目を集めたが、今では「駒沢で焼鳥と言えば『せきや』」と評されている。
鶏はプリンとした歯応えと濃い味わいが野性味を感じさせる「天城軍鶏」と、程よい食感と甘みのある脂が上品な「淡海地鶏」を使い分け、表面はパリッと、かめばふっくらジューシーに焼き上げる。
串6本と一品料理の「おまかせコース」(4,500円)に、串や一品、〆を追加するスタイル。
胸肉でネギを挟みふっくらと焼き上げた「ねぎま」(単品は400円)。
すき焼きをイメージし、春菊と卵黄を添えた「つくね」(単品は400円)。一番人気の串メニュー。
たっぷりかかったナッツがアクセント。「クレソンサラダ」900円。
香味野菜とニンニクを練り込んだ「レバーパテ」900円。
予約で満席になる日も多いが、「空き次第でいいので連絡をください」という当日の問い合わせにもできる限り対応しているのは、「その日の気分でフラッと立ち寄ってほしい」という店主・関屋和樹さんの心意気。
こういう店が存在しているのが、駒沢の食偏差値の高さを体現している。
日本酒は、比較的しっかりした旨みの強いタイプの純米酒を多数そろえている。90cc 700円、120cc 1,000円。
ワインはブルゴーニュが中心で、グラス 1,200円、ボトル 7,500円~。
■店舗概要
店名:焼鳥 せきや
住所:世田谷区駒沢1-4-10 佐伯ビル 1F
TEL:03-6450-8898
営業時間:17:00~(L.O.22:30)
定休日:火曜、不定休
席数:カウンター15席
高円寺から恵比寿へと引っ越した歴を持つ私にとって田園都市線は縁遠く、身構える存在。駒沢といえば最たるもの。
はて、数年ぶりに訪れてみると、まず空の広さに気づく。公園の存在がそうさせているのだが、サンセットが強烈にきれいで、思わず涙してしまった。
そんなこんなで、訪れたのが今年の4月にオープンした『駒沢スタンドS』。
ネオ酒場的なお店だが、さすがは駒沢。週末ということもあって、裕福そうなご夫婦や女性陣が早めから休日を満喫。
料理は創作中華とクラフトリキュールがエッジィで美味。
カジュアルなお店も上質なお店も共存するのが駒沢の懐の広さなんだとひとり納得するのであった。
駒沢公園を散歩してたらNYのセントラル・パークを思い出しました。山本さんのコメントを後から聞いてニヤリ。
今月の『東京カレンダー』は「密やかなる青山へ。」特集。上質で艶やかなデートでお株が上がる店だけを厳選してピックアップ。
昼のイメージが強いエリアの夜の美食体験は、ふたりの関係をより濃密にしてくれるはずだ。
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※東京カレンダーは毎月21日頃の発売です。今号は9/21(木)から。
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