「将来のために、自分の子どもには高学歴を」
こんな思いを胸に、幼稚園の頃から“お受験”のために高い教育費をかけて塾へ通わせ、子どもを私立の学校に入れようと考える親が増え続けている。
そして、より良い学校に入るために、子どもたちは親の期待を一身に背負って勉強に没頭する。
確かに、家庭環境や学習能力が同レベルの子どもたちが集まる学校に入り切磋琢磨すれば、難関校といわれている学校へ進学できる可能性は高くなるだろう。
しかし普通の公立校に通い、現役で東大へと進む子どもがいることも事実だ。
今回は「都立日比谷高校から現役で東大に合格した息子」を持つ父親に、取材を行った。
この家庭では子どもの教育というものに対して、一体どのようなスタンスで向き合ったのだろうか。
取材・文/蒔田稔
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中学受験がすべてではない!公立高校から現役で東大に入れた理由
2023年の首都圏の私立・国立中学校の受験者数は、首都圏模試センターの推定によると、前年より1,500人増加の52,600人。
この数字は9年連続で増加していて、今年は首都圏の小学6年生4.65人に1人が中学受験したという。
ここ数年、過熱の一途を辿っている中学受験。高い教育費をかけてでも、子どもの将来が良くなるのならと塾へ通わせ、進学校入学を考える親たち。
子ども自身よりも熱が入り、あれこれと口を挟んでしまうことも親からすれば当たり前のことだろう。
しかし、そんな時流に乗らなくても、都立高校から東大に現役合格したのが山田正伸さん(仮名、50代)の長男・勇斗くん(仮名、23歳)だ。
山田さんは、長男が小学校高学年だった頃を振り返りながら、こう話す。
「当時、仕事の都合でアジア圏に赴任していて。だから長男が中学受験をするタイミングで、どこに住んでいるかもわからなかったんですよね。
おそらく東京だろうと思ってはいましたが、私から率先して長男に中学受験をさせようとは思っていませんでした。まあ、本人が受けてみたいと言ったらやらせたと思いますけど」
都内在住の山田さんは、奥さんと勇斗くん、次男の賢くん(仮名、17歳)の4人家族だ。そして勇斗くんは小3から3年間、山田さんの赴任先である海外で暮らしていたという。
まさに中受をするのなら、猛勉強しなければいけない時期。ただ海外にいたのなら、語学でのアドバンテージがあったかと思うのだが…。
「現地の日本人学校に通っていたので、言葉はすべて日本語でした。現地の子どもと交わることもない環境でしたから、語学力が特に上がったということもありません。
さらに小学校時代、勉強は学校の授業だけ。日本から通信教育の教材をとっていましたけど、ちゃんとやってなかったんじゃないかな。
塾も行ったことがないし、もちろん中学受験向けの模試なんて受けたことはないです」
「小学生のときくらい、塾などに通って勉強するよりも、しっかり遊んでいるほうがいいのでは」と言う山田さん。中学受験のシステマチックな方法にも疑問を持っているという。
「中受はほとんどの子どもが同じ大手進学塾のテキストを使って、それをいかに効率よく覚えるか、じゃないですか。語弊があるかもしれませんが、そんな勉強は何か意味があるのかなと思ってしまうんです」
そして中学に入学するタイミングで、日本に帰国。公立中学に進学した。
「優等生というわけではなかったようですが、教室にいると自然と友達が集まってくるような存在だったそうです。周囲から一目置かれていたんじゃないかな。
それは先生にも同じだったようで。先生に何か言われて言い返したりもしてましたけど、それで悪い印象を持たれることもなく。成績も悪くなかったですね」
高校は、当時は試験日が別だった慶應と開成、そして日比谷高校を受験。猛勉強の甲斐あり、3校すべてに合格した。
そして日比谷高校へ進学し、東大合格という高いハードルを現役でクリアする。しかしここに至るまでには、山もあれば深い谷もあった。
都立屈指の進学校の日比谷高校に入学したとたん、みるみる勉強時間は減っていき、家ではスマホに夢中。大学受験直前の模試では、まさかのE判定を取ったのだ。
ただ、この後の両親の反応が、彼の能力を最大限に引き出すものだったのかもしれない。それは…。
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