青山で再始動した名店のシェフに聞いた!愛され続ける“ドンチッチョ”らしさとは?

シチリア料理は毎日食べても飽きなかった。日本と同じ島で食材豊か


そこでシェアするのは、粋でクラシックなシチリア料理。

石川さんがイタリアの他のエリアではなくシチリア料理に惹かれたのは、「毎日食べても飽きない」という理由から。「現地で日本食がまったく恋しくならなかった」と話す。

「同じ島国で山もあれば海もある。魚介が豊富で野菜もめちゃくちゃ美味しい。

ウイキョウやカリフラワーを使ったなんでもない料理が沁みる味だった。なすもいっぱい使うんだけど、なすがこんなに美味しいと初めて知った。日本でやる上で理に適っていると思いました。

郷土料理はその土地の特産物を使うけど、シチリアの塩やオリーブオイルも塩漬けの食材も、今はそろうからちゃんと再現できる。後から甘さが出てくる海塩を使うと、同じグリルをしても全然違うんですよ」

オープンキッチンから見えるのは、手際良く料理を仕上げる石川さんと調理スタッフ。

下に任せる仕事も多いが、パスタ番はシェフ本人。麺の選び方から塩の入れ方、茹で方まで、シェフの加減で作るとパスタが締まる。

トマトソースと一体になれば、表面の口あたりにまず惹かれ、噛み心地と喉越しは軽快で、わんぱくに完食してしまう。

絶対定番である「鰯とウイキョウのカサレッチェ」2,400円。新鮮なイワシとさわやかな風味のウイキョウに、松の実やアンチョビ、レーズンなどを合わせている。食材同士の香りの相性が抜群だ


名物の「鰯とウイキョウのカサレッチェ」は、イワシ節を彷彿とさせるどっしりした旨みがショートパスタの溝に行き渡るワイン泥棒だ。

忙しい時間帯を終えた22時頃、カウンターの中に立つ石川さんの手にはワイングラス。常連と談笑しながら酒を飲み、ただ飲んでいるかと思いきや、カウンターを拭いたりワインが欲しい客に気づいたり、楽しく働いている。

そのうち食後のテーブルに誕生日プレートが運ばれ、イタリア語のバースデーソングがスタッフによって歌われる。歌い終わると周りの客まで拍手で祝福。

場所は変われど、“ドンチッチョ”の日常は変わらない。「一丁目だけど(渋谷)二丁目」と石川さんは笑う。自由で大らかで、誰もが感情にストレートになれるような場所だ。

「隣を気にしないで喋る人もいれば、2組のカップルが意気投合して、1杯どうぞとやっているうちに4人で六本木に飲みに行くこともある。そのどちらもできるお店。

ここで知り合って、後日食事に行くという人も多い。面白いなと思います」

オープン前には計9人のスタッフでテーブルを囲み、パスタから肉料理に続くまかないを食べる。まるでイタリアの家庭のようだ。

取材時には巨大皿に盛られたシーフードパスタと、豚肩ロースのロトロ(肉巻き)がまかないとして登場。そうして力をつけて客をもてなすが、やりがいは分かりやすく目に入ってくる風景にある。

「何よりも僕たちが嬉しいのは、お客さんみんなが笑顔で喋っている時」

笑顔を作る秘訣を聞くと、「まずは自分たちが楽しく働く。そこが一番大事かな」と石川さん。

楽しさという味付けに長けたトラットリアが、青山一丁目の夜を今日も朗らかにしている。


1984年に渡伊して3年現地修業。2000年『トラットリア ダ トンマズィーノ』にて独立。2006年『トラットリア シチリアーナ・ドンチッチョ』を開業した。サッカー観戦好き。


▶このほか:日本の美食を支える「やま幸」の社長が描く、“麻布十番の未来図”とは

今月の『東京カレンダー』は「密やかなる青山へ。」特集。上質で艶やかなデートでお株が上がる店だけを厳選してピックアップ。

昼のイメージが強いエリアの夜の美食体験は、ふたりの関係をより濃密にしてくれるはずだ。

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