2023.10.07
日本におけるシチリア料理の先駆者である『トラットリア シチリアーナ・ドンチッチョ』。
長らく店舗を構えた渋谷二丁目から仮店舗を経て、青山一丁目に移転をした今も、相変わらず連夜賑わいをみせている。
お店が活気に満ちる秘訣、“ドンチッチョ”らしさの根源を、オーナーシェフ・石川さんに聞いた!
【移転した新店舗の紹介記事はこちら!】
青山で新しいスタートを切ったイタリアンの名店!アクセス&ムード抜群のシチリア食堂
いらっしゃいませ!と元気良く挨拶する。そこが楽しさのスタート
店の前を通ると、今すぐ自分も生ハムでもつまみながらワインを飲みたくなってしまう。『トラットリア シチリアーナ・ドンチッチョ』が渋谷二丁目にあった頃、そう思った経験がある人は多いだろう。
目隠しとして並ぶ植木の向こうには、仲間とイタリアンをシェアしながら談笑する大人たち。時に大笑いも聞こえ、葉の隙間からご機嫌が漏れる。
この店は、嫉妬するほど楽しそうなのだ。シェフに見送られて帰る人々の満足そうな顔といったら。
そんな“渋二のシチリア”として17年を過ごした“ドンチッチョ”が、今年2月、青山一丁目に移転した。地下鉄の駅を出てほんの30秒。真新しいオフィスビルの1階が新天地だ。
正直、外観は前の方がとっつきやすかったが、扉を開けると「いらっしゃいませ!」とスタッフが元気に出迎えてくれる。席に着けば別のスタッフが「こんばんは!」と挨拶を重ねる。以前とまったく同じだ。
それはオーナーシェフ・石川 勉さんの「食事は楽しく」というポリシーの入口。「挨拶と返事をちゃんとする。そこから始まるから」と、スタッフに伝えている。
「やっぱ最初の印象って大きい。鮨屋じゃないけど威勢がいいとお客さんもスイッチが入る。
だから楽しい雰囲気を作るひとつ目は、“いらっしゃいませ”を元気良く。そしたらお客さんも気取ったお店じゃないと分かって喋りやすい。そこを最初にはっきり伝えるのが大事。
まあ、うちのお客さんはみんな勝手に喋ってるんだけどね(笑)」
自身もイタリア人のような陽気さを醸す石川さんだが、実は元フレンチ志望だった。
1961年に岩手で生まれ18歳で上京。料理の専門学校に進み、就職先でフレンチに配属されると思いきや、人が足りなかったイタリアンへあてがわれる。
「ちょうどハマって、そのうちローマへイタリア研修に行ったら、こっちだ!と確信してそのままです」と開眼した。
今はなき神宮前『ラ・パタータ』を経て1984年にシチリア島パレルモへ。同地を舞台にした映画『ゴッドファーザー』が好きだったし、日本の料理人が誰も行っていない地で修業したかった。
アジア人自体がほぼいない時代。しばらく食事はひとりで食べることが多かった。
「“カタコンベ”っていう教会の下にミイラが何体も眠る場所があって、その近所によく行ったピッツェリアがあった。ビールを頼むとお通しでコロッケが出て、お金がないからそれだけで嬉しい。
食べているとお店の人が珍しいから、“お前どっから来た?”と聞いてくる。まだあまり話せない時期で、小学館の緑色の分厚い辞書を開いて調べながら喋ったね。当時は毎日カバンに辞書と水しか入ってなかった。
イタリア人は相手が喋れなくても全部イタリア語でバーっと話すから、分からないと、“今の何?”と聞く。すると辞書で探して教えてくれる。そうやって言語を覚えて、食べて喋っていると気持ちが安らいだ。
ひとり客にも優しくて、感じがいいからまた行こうと思う。そのうちに“1杯飲んでけよ”と頼んでもいないリキュールをくれた。でも何もなくてはくれない。
喋って自分を出すから相手が返してくれる。南の人はあったかい人が多かったです」
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