あなたとのDistance Vol.1

あなたとのDistance:30歳男が本気の女に贈るプレゼントとは。アクセサリーでもバッグでもなく…

絢音と出会ったのは、4年前の食事会だ。

写真展めぐりが趣味だという3つ下の絢音と、カメラ好きな僕が意気投合するのに、時間はかからなかった。

以来、都内や時には地方の写真展に2人で足を運んだ。

絢音は「写真は見る専門」だそうで、カメラを持っていなかった。

2人で出かけるときは、僕が必ず一眼レフカメラを構え、絢音や、絢音のそばにある景色を切り取ってきた。

大切な思い出を、アルバムで保存したいからだ。


絢音と過ごす時間は、たちまち僕のすべてになった。

特にうれしく思うのは、一緒にいるときに絢音がよく言ってくれる、このセリフ。

「浩輔との時間だけが、私の息抜きなんだ」

絢音は、平日は息をつく暇もないほど忙殺されている。真面目な性格であるがゆえに自分を追い込むくせがあり、いつも疲れた顔で帰ってくる。

そんな彼女が一緒にいるうちに笑顔になり、のびのびした様子になるのが、僕にはかなりうれしかった。

彼女の心の休日になれているという手応えを胸に、この4年間、絢音を心から大切にしてきたのだ。

鍋を揺らし、こんがり焼けた肉の上に野菜を入れる。最後に先ほどの合わせ調味料を投入し、かき混ぜる。

― もし僕がフランスに行ったら、絢音は息抜きできなくなってしまうかな。

だんだんと、気分が落ち込んでくる。心配。寂しい。でも、挑戦してみたい。感情が複雑に絡んだとき、玄関の鍵が回る音がした。

「おまたせ。ああ、いい匂いがする!」

いつもの、やや疲れた声が聞こえてきた。


回鍋肉でお腹を満たすと、僕はフランス行きについて切り出した。

絢音は、驚きながらもうれしそうに小さく拍手をしてくれる。

「声がかかるなんて、すごいじゃない。めったにないチャンスなんでしょう?」

「うん。でも、もし行くとしても絢音は一緒に来られないよな?」

「…そうね。今は、仕事を離れるわけにはいかないし」

「だよね。だからその…どうしようかなって」

もちろん、絢音に無理についてきてというつもりはなかった。でも絢音を置いていくのは心配だし、寂しい。かといって何よりこのチャンスをふいにしたくない。

気持ちをうまく言語化できないでいると、絢音は優しく微笑んだ。

「内心もう決めてるんでしょう?だっていつも以上に、目がいきいきしてる」

「え?」

「私はそんな浩輔が好きなんだよ。寂しいけど、どんな決断も応援する。だから心配しないで」

絢音に背中を押されたのをきっかけに、自分のなかでも何度も考え抜き、1週間後に先輩に「行きます」と返事をした。

そして暑い夏が過ぎ、日差しが和らいできた9月の終わり。あっという間に、出発前夜がやってきた。

この記事へのコメント

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No Name
おぉぉぉ...久々に新しい連載が週末に加わった!!! しかも好きなテイストの文章とストーリー。ニコンの宣伝要素入ってるなとも思ったけれどそれでも久しぶりにいい話を読めて嬉しい😊
2023/09/23 05:3181返信3件
No Name
答え合わせ以外のお話が久しぶりなので二回繰り返して読んでしまいました。1回目は浩輔を古屋呂敏イメージ、2回目は岩田剛典イメージで楽しみました。
2023/09/23 05:3542返信2件
No Name
ステキなプレゼントじゃない♡
2023/09/23 05:2835
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