
あなたとのDistance:30歳男が本気の女に贈るプレゼントとは。アクセサリーでもバッグでもなく…
パッキングの最終確認をしていると、キッチンから美味しそうな揚げ物の香りが漂ってくる。
今日は土曜。
週末の料理担当の絢音が、大分出身である僕のために、最後に好物のとり天を作ってくれている。
「浩輔、そろそろご飯できるよ」
絢音の声に立ち上がった僕は、分厚いアルバムを手にダイニングテーブルへと向かう。
絢音と過ごした4年間の景色を、このアルバムにまとめておいたのだ。今夜は食後、これを見ながら思い出を語り合おうと思う。
「絢音のご飯は世界一だな。このとり天は特に好きだ、恋しくなるよ」
「フランスの食事はおいしいから恋しくならないよ」
「なるよ。絶対になる」
一口ずつをこんなに名残惜しく食べたのは初めてかもしれない。離ればなれになることへの実感が、またひとつ濃くなる。
食事を終えると、僕はテーブルに例のアルバムを広げた。
「絢音、見てこれ」
「わあ…すごい。たくさん撮ってくれたんだね」
僕たちは身を乗り出して、1枚ずつの思い出を話した。
1時間弱をかけて4年間を振り返ると、アルバムの裏表紙をさすりながら絢音は言う。
「浩輔がたくさん写真を撮ってくれてるの、いつもうれしかったんだ。ありがとね。このアルバム、離れている間に何度も見るわ」
絢音はすこし口を尖らせて笑った。それが彼女が涙をこらえているときのくせであることを僕は知っている。
「…本当に行っちゃうんだねえ」
絢音の目に涙が浮かんできて、僕はあわてて彼女の手をさすった。
「そうだ。プレゼントがあるんだ、絢音に」
テーブルの下に隠しておいた紙袋。中に入っているのは、Nikonのミラーレス一眼と、分厚いアルバムだ。
「カメラと、アルバム…?」
「4年分のアルバムを作っていて思ったんだ。ここで僕らの記録が途絶えるのは本当に寂しいなって。
だから向こう2年間は、それぞれの景色を残そうよ。僕もパリで撮るから、絢音も東京で、日常を撮ってほしいんだ」
絢音の口角が上がる。
「で、僕が帰ってきたらさ、今みたいに1枚ずつ振り返って語り合おうよ」
「いいねえ」
絢音は目を輝かせながら、Nikonのミラーレス一眼を箱から取り出した。
「ああ…いつか自分のカメラを持ってみたかったの。ありがとう、ワクワクする。たくさん撮るね」
喜ぶ顔を見ながら、僕は思う。
実は、プレゼントにNikonのミラーレス一眼を選んだ理由は、アルバムを作りたかったからだけではない。
カメラというのは、慌ただしい日常の中でひと息つく瞬間をつくってくれる。
普段目が向かない世界に意識を向けることで、ひとときだけ、緩やかな時間を過ごせるのだ。スマホのカメラではそうはならない。
― 僕がいない間、絢音の心がちょっとでも休まるように。これは、わざわざ言葉にはしないけど。
とにかく使いやすいNikonのミラーレス一眼なら、きっとカメラ初心者の絢音でも使いこなせるはずだ。
設定がシンプルで覚えやすいし、コンパクトで持ち運びやすい。
高画質で逆光補正も優れているので、ストレスなく撮影を楽しめるだろう。
かといって初心者感のあるデザインではなく、佇まいに味がある。
フィルムカメラのような伝統的な外観は、絢音の服装にもよく似合いそうだ。
― 気に入ってくれるといいな。
絢音が元気で過ごせることを願いながら、僕は彼女の目を見つめた。
そして、フランス行きを決めてから何度も心の中でシミュレーションしてきた、大切なセリフを言おうと、ゆっくり息を吸う。
「絢音」
「ん?」
「僕、フランスで頑張って、もっと活躍できるようになって帰ってくるから。だから2年後に、プロポーズさせてください」
「浩輔…」
涙をぬぐう絢音を抱き寄せると、こらえきれない思いに視界がゆがむ。
「ねえ、浩輔。このカメラの使い方を教えて。最初の1枚は2人の写真にしたい」
「いいね。そうしようか」
一通りレクチャーをしたあと、Nikonのミラーレス一眼をこちら側に向けてテーブルに置く。
そのフレームにおさまるよう、僕らはレンズの前でギュッと寄り添った。
2年後に完成する、新しいアルバム。1枚目を飾る大切な写真。軽快なシャッター音が、思い出あふれる部屋に響いた。
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