2011.08.22
豚肉ラヴァーが溺愛する、変化系豚料理 Vol.3LOCRONAN
料理人は基本に実直であれ。お客は食欲に忠実であれ
2011.08.22
豚肉ラヴァーが溺愛する、変化系豚料理 Vol.3料理人は基本に実直であれ。お客は食欲に忠実であれ
「こだわりは、無いんです」
そう、はにかむように笑う、石井啓資シェフ。産地や肉質等、素材を選ぶ条件聞くと、こう返ってきた。この言葉、思えば久しぶりに聞いた気がする。赤坂『オー・バカナル』を皮切りにフランス料理人修業に入り、渡仏した2年間を挟み、数店で腕を磨く。今年4月まで神田『ビストロ・マルサンヌ』でシェフを務めた後、7月、晴れて奥沢『ロクロナン』を独立開業した。
小体な店は、スタッフとふたりだけで切り盛りする。だが前菜11品、メイン7品、デザートは8品を用意。しかも丁寧な仕込みを必要とするものばかり。バスク、ボルドー、南仏、リヨン、サヴォワと地方ばかりを巡ったフランス時代に出合い、心惹かれた定番郷土料理が並ぶ。
豚バラ肉のピペラードはマリネしてカリッと焼いた豚バラ肉を、たまねぎやパプリカを加え、ピマン・デスプレットで風味付けしたシンプルなトマトソースの上に置き、揚げ卵を添えたひと品。バスクのウフ・ア・ラ・ピペラードはスクランブルエッグだが、この店の限られた条件では作り置きができない。苦肉の策の揚げ卵にナイフを入れると、とろり濃密な黄身がソースとなり、肉の脂を優しく包む。結果良ければ、全てよし、だ。豚肩ロースのグリエは、できるかぎり厚く切り出した肩ロースに、メース、コリアンダー、クミンなどをまぶしつけ、弱火でじっくりと焼く。落ちた脂が跳ね返り、それがまた香ばしく焼けた表面に風味をつける。
「表面がカリッとしていて、中はロゼ。ちゃんとジューシーで『肉を食べてる』実感がある。そんな料理が好きなんですよ」
地方の星付きレストランで学んだのは、古典的手法を崩さず調理し、少々の洗練を以って皿の上に軽やかさを出す料理。
「守りたいのは、それだけ」
肉は四ツ谷の大御所と同じ食肉業者から仕入れ、ピカルディ風フィセルに使う豚の燻製は、多摩川べりで自家製する。のんびり屋さんに見えて、しんどくても押さえ所は外さない。素直さが、ちゃんと味に染みている。
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