SPECIAL TALK Vol.104

~病気に苦しむ人だけではなく、日本の医療界を救う医者になりたい~

金丸恭文氏 フューチャー株式会社 代表取締役会長

大阪府生まれ、鹿児島県育ち。1989年起業、代表取締役就任。


“村社会”の絆で外科の地位を向上させたい


大木:だけど、ミッションにトキメキを感じた以上はやるしかない。頑張っている外科医を辞めさせないため、そして新しく入ってくる仲間を増やすために、何ができるかを考えて実行してきました。

金丸:大木さんは手術だけじゃなくて、チーム作りもうまそうですね。

大木:学生時代の部活を手本として、一体感を持つことで仲間意識を育てる活動をいろいろやっています。それが組織の求心力を高めることにつながるので。

金丸:具体的にはどんなことをされているのですか?

大木:たとえば、「月例・チェアマン夕食会」。毎月第1金曜日に新橋の居酒屋を借り切って、誰が来てもいい飲み会を始めました。先日まではコロナで一時中断していましたが、これまでに145回やってます。それから、ゴルフを国技ならぬ「局技」にしました(笑)。

金丸:あえて“昭和のモデル”を採用したと。

大木:おっしゃるとおり。飲み会、カラオケ、麻雀もいいけど、ゴルフには外科に通じる平常心の重要性、競技性があるし、老若男女分け隔てなくできるし、抜群の社交性がありますから。大木杯を含む大きな大会を年4回開催していますが、多いときは100名近い外科医が参加します。また、「ゴルフのススメ」としてその年の新入社員を連れて軽井沢で毎年合宿をしますが、これがまた悲惨で(笑)。

金丸:どんな惨劇が?

大木:何が悲惨かというと、新入社員のうち、ゴルフ経験者が1、2名しかいなんです。ヘッドにビニールをつけたまま打とうとしたり、パターを振り回しながらティーグラウンドに行ったり。

金丸:未経験なの丸出しじゃないですか(笑)。

大木:前夜は山荘でオールナイトの食事会・親睦会ですが、プライベートなこともガンガン聞いて若手との距離を縮めます。翌日は僕は3ホールごとに組を移動して参加者全員とプレーするように心がけています。

金丸:イギリスやベルギー、アメリカで長い時間を過ごした大木さんが、そういう昭和のやり方に活路を見出したのは、面白いですね。

大木:アメリカ時代に個人主義を嫌というほど見てきたのが、理由のひとつです。自分の成果になることだけをやる。組織への帰属意識はない。それはそれでひとつの社会のあり様だと思いますが、日本にはフィットしません。「自分が頑張れば会社が良くなり、会社が良くなれば社会が良くなる」。今の若者だって捨てたものではありません。多くの若者はこんな意識の職場で仕事がしたいと感じています。

金丸:なるほど。給料倍増も月250万の家賃も、大木さんの心を動かせないわけだ。

大木:実は、この5月までの1年間、日本外科学会の会頭を務めていました。そして4月26日から3日間にわたって参加外科医約1万6千人規模の年次学術集会を開催したのですが、そこでの僕の会頭講演のタイトルは「トキメキファインダーの足跡:より高く、より遥かへ」。

金丸:いかにも大木さんらしい。

大木:医者がトキメキを忘れてしまったら、日本の医療はとんでもないことになります。特に外科医はトキメキなしではやっていけない。もちろん、外科医の待遇を改善するための活動はこれからも続けるつもりですが、待遇改善は必要条件であって十分条件ではない。

金丸:今の世の中は減点方式じゃないですか。外科医は手術があるから、ミスがはっきり分かってしまう。

大木:そう。それも全国的には外科が若手に敬遠される理由でしょう。三振の数で評価する社会だと、打席に立たない人が一番強いんですよ。でも、そんな人だけを集めてチームを作っても、勝てるわけがない。

金丸:リスクを取らなきゃ、ピンチを乗り越えることも成長することもないですからね。

大木:医療界にこういう言い回しがあります。「病気を治すは下医なり。病人を治すは中医なり。国を治すは上医なり」。自分に当てはめると、まずアメリカで新しい手術を開発したことで、下医になれた。日本人を治したいと思って戻ってきて、中医になれた。最後は外科全体をよくしたいとか、国をもっとよくしたいとか、より大きい観点から貢献することで、上医になりたいと思っています。そのひとつがウィズコロナ施策とコロナ医療への財政支援を柱とした「新型コロナ大木提言」です。これを安倍晋三元総理に採用してもらい、予備費から差し当たって1兆3,000億円を獲得し、当時全国に50床しかなかったコロナベッドを劇的に増やすことで、国民の安心・安全に貢献し、病院の財政改善にも役立つことができました。しかし、大木はコロナを軽んじていると、炎上しました。

金丸:大木さんが医師という器に収まりきらないスケールの持ち主だということが、よく分かりました。

大木:僕は異端児ですから(笑)。

金丸:どんな業界でも、壁を破って新しい世界を切り拓いていくのは異端児です。これからも大木さんにご活躍いただき、日本の外科、ひいては日本全体をよくしていただきたいと思います。今日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。

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