その日の夜、私はさっそくベッドに横になりながらアプリを開いた。
― 久しぶりに開いたなぁ。このドキドキ感…たまらない!
マッチングアプリが最も楽しいのは、最初の1週間じゃないだろうか。
新しいゲームを始めるときのようなワクワク感があるし、メッセージのやり取りも積極的になる。
その時に出会ってしまうのは、マッチングアプリの必勝法のひとつだと思う。
でも残念ながら、私は新規会員ではない。だから、登録したての人を狙うのが、成功の秘訣だ。
新規会員の中で目についたのは、30歳男性・KY。
『同僚から勧められて始めました。
IT企業のマーケティング部門で働いています。赤坂在住で、趣味はゲーム。
どちらかと言えばインドア派なので、外に連れ出してくれる方がいたら嬉しいです。真面目で誠実な性格だとよく言われます。また、マーケティングの仕事柄、時事問題やトレンドに敏感で、他人より知的好奇心が旺盛だと思います。
まずは気軽にお互いのグルメ情報など交換できたら嬉しいです。僕と同じように、誠実さを大切にされる方が理想です。よろしくお願いします』
― おぉ…たしかに誠実そう…。
プロフィールが少し堅いような気もしたが、見た目も悪くなかったので、私は自分から「いいね」を押した。
すると、すぐに相手が見てくれ、見事マッチングした。
「やったぁ」
思わず口にしてしまう。
相手から先に「いいね」をもらうのも嬉しい。でも同じかそれ以上に、こちらから好意を示した人とマッチするのが嬉しい。
この一瞬の高揚感こそが、マッチングアプリの醍醐味だとも思う。
― では、この先はアプリ歴が長い私がリードしますか。
私は、早速マッチングしたKY氏にメッセージを送り、何回かのやりとりの結果、アポを取り付けることに成功した。
無事にLINEヘの移行も終わり、会う日もサクサク決まった。
本名は、山田健太郎というらしい。LINEの名前がフルネームなのも好印象だ。
あとは向こうが店を選んでくれるのを待つだけだ。
「楽勝…かも!」
難所のひとつともいわれるアポの段取り。
ひととおりのステップをこなしたら、安堵したのか、急にお腹が空いてきた。
冷蔵庫を開けて賞味期限が切れそうな生クリームでカルボナーラを作った。
「私は、食べることが好きだし、料理も好きだし。こういうところが合う人がいればいいな~」
そうつぶやき、食事中にもアプリで他の男性をチェックしていたら、健太郎からLINEがくる。
『山田健太郎:綾子さんの他の写真も見てみたいな』
― おっと、そうきたか。
私は、フォークを持ったまま一瞬、フリーズしてしまった。
『AYAKO:これでよかったら…』
仕方なく、アプリに載せているものと同じように少し良く映っている写真を送った。
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