発覚の経緯は、ありきたりなものだ。
愛菜の友人・黒木瑠璃が、雄大と美女がいる店に偶然居合わせたというのだ。
瑠璃から突然『雄大君と美女がデートしてるんだけど!?』というLINEが届き、愛菜は気が動転した。
― たしか、昨晩寝る前に電話したとき、雄大は言っていた。
「明日の夜は幼馴染みとゴハンしてくる」と。
もちろん本当に幼馴染みなのかもしれない。でもそれならば「幼馴染みの女の子とゴハンしてくる」と言ってほしかったと愛菜は思う。
幼馴染みという“くくり”は一緒でも、同性と異性ではまったく印象が違うからだ。
はたして雄大の行為は浮気なのか。愛菜は、ひとりで考え込んだ。
◆
翌日の土曜日。
お昼ごろになって雄大が、愛菜の家を訪れた。
週末は必ずどちらかの家に行くことになっている。
もちろん愛菜が雄大の家に行っても良かったが、そうしなかったのは、最悪の想像をしたからだ。
― 万が一、家に行って例の美女がベッドで寝ていたら…。
考えすぎかもしれないが、そんな現場に遭遇する覚悟は、愛菜にはない。
愛菜は、今すぐ問い詰めたい気持ちを抑え、雄大を出迎える。
愛菜の気も知らず、雄大は「朝ゴハンの代わりに」とコーヒーとドーナツを買ってきていた。
「俺、お腹が空いてるから、先に食うね」
ドーナツにかぶりつく雄大を尻目に、愛菜はドーナツどころかコーヒーにも手を伸ばすことができない。
「どうしたの?愛菜、変だよ?」
そう言われてやっと決心した愛菜は、昨夜瑠璃から送られてきたLINEのスクショを見せた。
「これが何?もしかして浮気を疑ってる?」
雄大は、平然と言ってのけた。
「ないないない。幼馴染みだよ?そういう関係になんてならないよ!」
「でも、女の人とふたりきりでデートなんて…」
「デートじゃないよ。幼馴染みとメシ食ってるだけじゃん」
雄大たちが行っていた店は、渋谷の『高太郎』。
たしかに男女のデートだけでなく、友人同士の飲み会でも楽しめる店ではある。
「本当に浮気なんかじゃないよ」
「じゃ、その女の人、私に紹介できる?」
「もちろん、できるよ」
雄大が即答するので、愛菜は少しばかり安堵した。
だが直後、雄大の顔が曇る。
それを愛菜は見逃さなかった。
「できるけど…」
「けど…何?」
「家が遠いから」
「は?」
「幼馴染みはまだ地元に住んでるんだよ。出張で東京に来てるっていうからメシを食ったんだよね。会うなら地元に行かないと…」
雄大の地元は北海道だ。気軽に行ける距離ではない。
だからこそ出張で東京に来た幼馴染みと会ったのだろう。
理屈は通ると愛菜は思ったが、しかし心は乱れたままだ。
― だったら最初から『女の幼馴染みが出張で東京に来ていて、会う機会が少ない相手だから、ゴハンを食べてくるよ』と言えばいい。
雄大は、ウソはついてない。
でもすべてを正直に話しているわけではない。
「やっぱり、私、どうしても引っかかる」
愛菜は、あらためて雄大に想いをぶつけた。
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