ハワイに憧れて Vol.1

ハワイに憧れて:親子留学も兼ねてハワイに滞在。旅行気分で浮かれていた妻が直面した現実とは

「ママ、大丈夫?」

圭介が心配そうに駆け寄る。

子どもたちが無事なことを確認して由依はホッとした。

その時、後ろを歩いていた50代くらいの日本人男性が声をかけてきた。

「ひったくりですよ。ハワイは最近治安が悪くなってるので、気をつけなきゃ。そんな観光客丸出しで、狙ってくれって言ってるようなもんだ」

男性は冷たく言うと、さっさと由依たちを抜かして行ってしまった。

― 観光客丸出し…?

日本で買ったDVFのサマードレスに、エルメスのサンダル、そしてロエベのカゴバッグ。


周りはカジュアルな格好が多い中、少し浮いているかもしれないが、棘のある言い方が癪に障る。

由依は何も取られていないか確認し、ここは日本ではないのだと、改めて実感するのだった。

その後、予約をしていた『Heavenly Island Lifestyle』で夕食を食べて家に戻ると、エレベーターを降りたところで、年齢不詳の女性が待っていた。

Tシャツにレギンスといったスポーティな服の上に、全身ジャラジャラと何重にもつけたパワーストーンが、なんとも違和感を与える。

由依は彼女の方を見て笑顔で挨拶を交わし、通り過ぎようとした時、いきなり彼女に腕を掴まれた。

「何か…?」

恐々尋ねる由依に、女が言った。

「やだー、あなた!“気”が濁ってるわよ!」
「えっ?“気”、ですか…?」

怪訝な顔をする由依に、女が手首につけていたストーンを一つ取って渡した。

「あげる。あなたにパワーをくれるから!」
「いや、結構です…」

女は押し付けるように渡すと「同じ階に住むエミリ。いつでも相談に乗るわよん」とウィンクをして、エレベーターに乗ってしまった。

「ママ、誰あの人?」
「さぁ…ここに住んでるのかな…?」

驚きで波打つ心臓を抑えながら、子どもたちが怖がらないよう平然と笑顔を向けて応える。

けれど、彼女の言葉が少し胸の奥で引っかかった。


深夜、子どもたちが寝静まった後、マスターベッドルームにあるキングサイズのベッドに夫婦で入る。

「なんか、一緒の布団で寝るの、久しぶりだな」
「そうだね…」

ずっと忙しかった圭介は、寝る時間にばらつきがあるため、別の部屋で寝ていた。

この家では、小さいシングルのベッド二つが、ドア付近の部屋に用意されており、リビング横のマスターベッドルームに、キングサイズのベッドが一つ置いてある。

シングルベッドを子どもたちが使うので、夫婦は自然と、キングベッドを使うことになったのだ。

由依は気恥ずかしさから「ふふ」と笑う。

その時、圭介のスマホが着信を知らせた。

「あ、ごめん、音消さないとな」

そう言って、由依と逆側を向き、彼がスマホを操作する。

その時に見えた画面が、発信元はわからないが、通知の履歴を消去するものだった。

― なんで消すんだろう…?

この時の由依は、圭介がハワイに行きたいと言った本当の理由を、まだわかっていなかったのだった。


▶他にも:ディナーのあと2軒目に誘われて、バーに行くと思いきや…?彼に連れていかれた、意外な場所とは

▶︎NEXT:3月26日 日曜更新予定
現地のサマーキャンプに子どもたちを通わせるが、そこで出会った日本人に…

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この記事へのコメント

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No Name
ん....
圭介は何かマズイ事に巻き込まれたとかでしばらくハワイに逃げて来た感じかな? そんな要素が含まれてるなら面白くなりそう!
2023/03/19 05:1565返信1件
No Name
アメリカ、特にハワイでサマードレスにバッグや靴までハイブランドでフラフラ歩いてると、いかにも日本人ですと言ってるようなものだから、狙われるわ。
2023/03/19 05:1859返信4件
No Name
ニューヨークの次はハワイに憧れてなのね。
海外が舞台の話は面白いから今後に期待してます。
2023/03/19 05:2039返信1件
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