「数年ぶりに会った第一声が、それ?」
菜々緒は笑いながら、ひとりでシャンパンを飲んでいる。
「きゃ~!サトミ!久しぶりだねぇ」
後からやってきた優子は、美容院でセットしたであろうヘアに、教科書通りのベージュのドレスを着ている。
「優子は相変わらず、ちゃんとしてるわ」
「ん?どういうこと」
私は優子の質問をスルーして、菜々緒に倣い乾杯前のシャンパンをフライングして一口飲んだ。
― なんだか、一瞬で昔に戻れたなぁ。
「なんとなく、ふたりに会えるような気がして出席にしたんだよね」
「え!私も」
「やだ。私もなんだけど」
たいして仲良くない新婦の結婚式で意気投合した私たちは、何度も乾杯をした。
この時は、ただこの同窓会のような時間を楽しもうと思っていた。
ふたりとの再会が、マンネリしていた毎日をガラりと変えてくれるなんて、予想もしていなかったから。
◆
「この年になるとさ、結婚式に何度も呼ばれるじゃない?だから、わかっちゃうんだよね~」
前菜を食べ終わり、すでに2杯のシャンパンを飲み干した私は、グラスを持ち上げながら言った。
「わかる。最初にラベル確認したけど、プロセッコでもカヴァでもなく、ちゃんとシャンパーニュだった」
菜々緒がピアスを揺らしながら答える。
軽く酔っていてもわかるくらい、この結婚式はかなりお金がかかっていることがうかがえる。
装花は豪華で華やかだし、料理も高級食材を惜しみなく使っているからだ。
― ふ~ん。お金持ちをゲットしたのね…。
でも、新婦から結婚報告のLINEをもらった時、彼女がどんな子だったのか、思い出すのに数秒かかった。
それもそのはず。
彼女とは食事会でしか会ったことがなかった。しかも、そのすべてが深夜の西麻布だったのだから。
披露宴にはひとり参加の人も多く、会場の雰囲気からも、新婦に友達が少ないことはすぐわかった。
もしかしたら、友達が減ってしまった理由があるのかもしれない。
そんなことを思っていたら、化粧室から戻った金髪の菜々緒がニヤニヤしながら小声で言う。
「ねぇ、今お化粧室で聞いちゃったんだけど…新婦の子、妥協婚らしいよ。好きな人は他にいるみたい。しかもその男性は既婚だって」
「なにそれ、怖い~!」
優子は、両手で口を押さえながら嘆いた。
― なるほど。結婚相手には愛じゃなく、お金を求めたってことか。
私は妙に納得した。
「ねぇ。私たちだけでニ次会しない?話したいことたくさんあるし。ここ、知らない人ばっかり」
式が終わりに近づき、菜々緒と優子に提案すると、ふたりは笑顔で賛同してくれた。
この記事へのコメント
何となくイライラする展開になりそうだわ。