「女の敵は女」
よく言われる言葉ではあるが、これは正しくもあり間違ってもいる。
女の友情は、感情が共鳴したときに強くなる。逆に感情が衝突すると亀裂が生じ、情も憎しみへと変化する。
この亀裂をうまく修復できなかったとき、友人は敵となる。
だが、うまく修復できれば関係性は、より深いものになる。
ここに、性格が正反対のふたりの女がいる。
ひょんなことから東京のど真ん中・恵比寿で、同居を始めたことで、ふたりの運命が回りだす…。
Vol.1 終の住処
東京・恵比寿。
リビングの大きな窓から入ってくる爽やかな秋風に包まれ、思わず諒子はつぶやく。
「最高…」
ここは、手に入れたばかりの自分の城。
中古ではあるが、築浅のデザイナーズマンションだ。
引っ越しの慌ただしさが落ち着いた、週末の昼下がり。目黒の北欧家具専門店でひと目ぼれしたリクライニングチェアに身を委ね、ワイングラスを傾ける。
漆原諒子の職業は、在京キー局のドラマプロデューサーだ。
恵比寿は勤務する局にもアクセス抜群で、肩ひじ張らない大人の飲食店も多く独身でも退屈しない。
明治通り沿いにある3LDKのマンションは大通りに面してはいるが、夜は静かで住みやすい。
ひとりでは持て余すほどの広さではあるが、この部屋はこれ以上ない運命の物件だと感じていた。
― 大学を卒業して、13年。私もようやくここまで来た。
誰にも邪魔されない幸せに浸りながら、諒子は今までの自分の苦労を思い返す。
激戦を勝ち抜いて、キー局への内定を勝ち取ったものの、入社後に待っていたのはADやAPなどの深夜まで続く下積みの仕事だった。
それでも“誰かが毎週楽しみになるような番組を作りたい”という夢だけは消えず、激務に耐えてきた。
35歳の今に至るまで、生活のすべてを仕事に捧げてきたが後悔はない。
たまに自分へのご褒美を購入するくらいで、貯めた蓄えは、億を優に超えるこの物件の頭金にした。ローンも30年以上ある。でも、心は満たされている。
『ピンポ~ン♪』
諒子が上機嫌で2杯目のワインをグラスに注ごうとすると、突然インターホンの音が部屋に響いた。
荷物が届く予定はないはず…。首をかしげながら、玄関モニターを覗くと――。
「諒子~、引っ越しおめでとう!」
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