
男女上京ヒストリー~12年目の悲哀~:交際2年目の彼氏がいる30歳女。プロポーズを期待していたのに…
幸太郎が握りしめていたのは、私のマンションの合鍵だった。
「千紘、別れてくれないか」
「えっ…?やだ、なんで急に。どうしたのよ」
「急じゃない。今だって会うのは2週間に1回くらいだし」
幸太郎は私の言葉をさえぎると、残りの白ワインを飲み干して言った。
「ここ数ヶ月、ずっと考えてたんだ。俺と千紘は一緒にいても、うまくいかないと思う」
「…どうして?」
「価値観の違いってやつなのかな。俺は結婚する人には、家庭を守ってほしいって思うんだ。ストレートに言うと、千紘は結婚向きじゃないっていうか…」
焦った私は、早口でまくしたてる。
「うん知ってる。だから先月、休みの取りやすい部署に異動したし」
「でも結局、毎日残業してるじゃん。それに千紘はいつも生き急いでる。一緒にいて落ち着かないんだ」
彼の「生き急いでいる」という言葉に、私の記憶は封印していた12年前へと遡っていった。
夏原千紘、18歳。初恋と東京への憧れ
2010年9月、高校最後の夏。
2学期が始まったばかりのこの日、私は恋人の大和と放課後の教室にいた。
「昨日のデコログ見てくれた?上京したら行きたいところリスト!」
窓の外を見つめていた大和に、携帯電話を差し出す。
渋谷109に竹下通り、そして六本木ヒルズ。ガラケーの小さな画面には東京の有名スポットが並び、文章は大量のデコメで装飾されている。
「…千紘は生き急ぎすぎだって。大学生になったらいつでも行けるんだし」
「え~。だって半年後には、東京で暮らしてるんだよ!私たち」
「まずやることあるでしょ。ほら、勉強勉強!」
そう言って私に数学のノートを差し出すと、彼は再び窓の外に目をやった。長いまつげと少し癖のある前髪が風で揺れていて、思わずドキッとするほどカッコよかった。
サッカー部のエースで人気者だった大和は、私の初恋の人。体育祭の日に私から告白して、1年間の片思いが実ったのだった。
「…ねえ大和。絶対に2人で、東京の大学に行こうね!」
彼は何をやるにも真剣だった。指定校推薦で早稲田への入学がほぼ内定していたが、休み時間も参考書を手放さなかったのだ。
一方の私は、都内有名女子大の推薦枠を狙っていて、勉強はそこそこしか頑張っていなかった。大学に行くことよりも「大和と東京に行く」という気持ちの方が強かったから。
「そろそろ塾行ってくる!大和は?」
「あぁ、俺は浩二と約束してるから。あいつが補習終わるのを待ってるよ」
「そっか。じゃあまた明日!あとで電話する~」
私は彼に手を振ると、教室を出た。…これが大和との、最後の会話になるとは知らずに。
この記事へのコメント
すごい衝撃的😭 だけど状況がよくわからない。電話で話しながら落ちたなら、千尋も気づくだろうし…
でも、面白くなりそうなので期待してます〜。
メインディッシュを平らげ、〆のパスタが運ばれてくるまで
えーー、イタリアンでパスタは〆?とかではないんだけど。サービスされる順番逆だし。こういう所、グルメ雑誌なので書き手側も少し知識があったほうがいいのにと思ってしまった!ここだけかなり残念。