夫のヤバい浮気相手
― だ、誰…!?
振り返った里香は、身構えた。
背後に立っている女が、目を真っ赤にさせてこちらを睨んでいたからだ。
「ええと、すみません。どちらさまでしょう?」
相手を刺激しないよう、里香が丁重に尋ねると、その女は蔑むように笑った。
「申し遅れました。私、英治さんとお付き合いしている、春奈といいます」
― エイジサント、オツキアイ…?
里香は、自分の左手薬指と目の前の女を交互に見る。
― 私は英治と結婚している。で、目の前の春奈とかいう若い女は、英治とお付き合いしてる…?
どうやら自分は、英治の浮気相手と対峙しているらしい。はたと現実に気づいた里香は、大きな声を上げる。
「はぁ!?」
その反応に、春奈は「英治さんが言ってた通り。本当に頭が悪いんですね」と、勝ち誇ったように言うと、こう続けた。
「私、英治さんと結婚しようと思っています。里香さん、あなたが邪魔なんです。さっさと英治さんと別れてもらえますか?」
「意味がわからないんですけど」
里香は不快感をあらわにするが、春奈は興奮気味に挑発し続ける。
「だから、私と英治さんは愛し合ってるんです。これ、見てください」
スマホに映っていたのは、半裸の男とシーツにくるまった女の写真。写真の男は、どこからどう見ても英治だった。
いかにも情事の後という生々しい写真を突きつけられた里香は、気を失いそうになる。
一刻も早くこの頭のおかしい女から離れたい。その一心で、里香は足元から崩れそうになるのを必死に耐えた。
「夫がご迷惑をおかけしてすみません。キツく叱っておきますね。では失礼します」
それだけ言うと里香は、猛ダッシュで走り出し、住人が出てきたタイミングで開いた自動ドアに滑り込んだ。
◆
「春奈って女が訪ねてきた。英治さんと結婚するって。どういうこと?」
部屋に戻った里香は、すぐに英治に電話をかけた。
浮気がバレた上に、浮気相手が妻のもとに乗り込んできたのだ。英治は、慌てふためき、すぐに飛んで帰ってくるだろう。土下座でもしてくれないと気が済まない。
そんなことを考えながら反応を待っていると、耳を疑う言葉が飛んできた。
「まったく春奈のやつ…。お前は遊びだよって、よく言って聞かせるな。今、ちょっと忙しいんだ。仕事に戻るよ」
里香は、さっさと電話を切ろうとする英治に向かって怒鳴った。
「ちょっと待って。なんなの?早く帰ってきなさいよ」
だが英治は動じることもなく、いつもの調子で優しくなだめた。
「マイキューティー、僕も早く里香に会いたいよ。そうだ今日は、どこかにディナーでも行こうか?」
「はあ!?そんなこと言ってる場合じゃないでしょう?何開き直ってるのよ!?」
矢も楯もたまらない里香が声を荒らげると、英治は落ち着いた声でこう言った。
「愛してるよ、マイキューティー」
「バカにしないでっ!キューティーだなんて、ふざけたこと言ってないで、とっとと帰ってきて謝りなさいよ!」
里香は、そのままスマートフォンを床に投げつけた。
「嫌な思いをさせて本当に悪かった」
15分後。
帰って来た英治は、里香の前にひざまずいて深々と頭を下げた。
「あの女とは、いつから?」
「4ヶ月くらい前かな。パーティーで知り合ってそれから…。でも信じてくれ。僕が愛しているのは、里香だけなんだ」
バカの一つ覚えのように愛しているを繰り返す英治に、里香は冷たい視線を送る。
こう言っておけば許してもらえるとでも思っているのだろうか。
怒り心頭の里香は、思い切りそっぽを向いた。が、その時。
「安心して。絶対に離婚はしないよ」
驚くほど穏やかな英治の声が、部屋に響き渡った。
▶他にも:“夜の女”から慰謝料をとるのは難しい…?妻が夫の浮気を知り、探偵をつけて証拠を突きつけるが…
▶︎Next:7月7日 木曜更新予定
英治の浮気が発覚し、怒る里香。反省の色が見えない彼に対して、あることを口走ってしまう…。
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この記事へのコメント
離婚しないって言われたんだから。
生活レベル、落とせないでしょ。
不倫相手がノコノコと妻の前に現れ、宣戦布告する展開、東カレライターさん達好きだよね。
英語で、カップルや夫婦がお互いをハニーとかベイビィとか呼び合うけど、マイキューティーは聞かないなぁ。