「マイ・キューティー」
13歳上の夫は、美しい妻のことを、そう呼んでいた。
タワマン最上階の自宅、使い放題のブラックカードに際限のないプレゼント…。
溺愛され、何不自由ない生活を保障されたセレブ妻ライフ。
だが、夫の“裏切り”で人生は一変。
妻は、再起をかけて立ち上がるが…?
「今日も最高に綺麗だね」
東京タワーを望む、最上階の部屋。
リビングの窓際に立って、きらめく夜景を見下ろすように眺めていると、背後から不意に抱きしめられた。
「ちょっと、くすぐったいってば」
シルクワンピース1枚しかまとっていない里香は、思わず体をよじる。振り返ると、そこには優しく微笑む英治の姿があった。
「会食、早く終わったのね」
「里香に1秒でも早く会いたくて、さっさと切り上げてきた。会食も断りたかったくらいだよ」
英治は軽口を叩きながら、里香を愛おしそうに見つめる。
「マイキューティー、僕はなんて幸せなんだろう」
「やめてよ。私、キューティーなんて呼ばれる年じゃないんだから」
わざとらしく彼の手を振りほどき、その場を去ろうとすると、英治がソファに置かれた赤い箱を指さした。
「プレゼントだよ」
この前ねだっておいた、ロジェ・ヴィヴィエの新作。里香にぞっこんの英治は、有り余る富と愛情を惜しみなくたっぷりと注ぐ。
「大好き!本当にありがとうっ」
英治に抱きつきながら、里香は窓の外に目をやる。今夜は満月。まんまる、黄色のお月さまだ。
― この世をばわが世とぞ思ふ…。
あの有名な歌が、ふと脳裏に浮かぶ。
「うふふ」
何もかも思い通り―。里香はこみあげてくる笑いを堪えることができなかった。
この記事へのコメント
離婚しないって言われたんだから。
生活レベル、落とせないでしょ。
不倫相手がノコノコと妻の前に現れ、宣戦布告する展開、東カレライターさん達好きだよね。
英語で、カップルや夫婦がお互いをハニーとかベイビィとか呼び合うけど、マイキューティーは聞かないなぁ。