2022.04.21
結婚できない私たち Vol.1自分で言うのも何だけれど、私は容姿がいい。
街を歩いていても、港区界隈の食事会に顔を出しても、自分以上に可愛い子には滅多に出会わない。
何よりもInstagramの6万人のフォロワーが、それを証明してくれている。ファンの中には、私が愛用しているスキンケアアイテムやコスメを、すべてまねる熱心な子だっているのだ。
それと、経営者と同じ目線で話せるコミュニケーション能力。
東京には、可愛くても会話が下手な人が圧倒的に多い。その点、私は経営者の友人も多く、彼らと食事したいと思えばいつでもできる。
だから、どんなことでも臆せずに話せるし、時には彼らにアドバイスすることもあるくらいだ。
そういう“他の子とは違う武器”を持っている私は、婚活市場でも圧倒的に有利だろう。
― わざわざ婚活なんてしなくても、私なら普通に恋愛して結婚できると思うけど。
そんなことを考えていたら、タクシーはいつのまにか自宅に着いていた。
私はエントランスの前に立ち、14階建てのマンションを見上げる。
経営者の男友達から紹介してもらった、田町駅にある単身用の賃貸マンション。港区アドレスで、JRも通っており、どこへ行くにも便利ではあった。
でも、せっかく港区に住むなら青山や南麻布のようなセレブな街に住みたいし、マンション重視ならプールやバーがあるタワマンがいいに決まっている。
― そろそろ、ちゃんと相手を探してみるか…。
今、特定の彼氏はいない。
いなくても十分に楽しいし、束縛されることもなく誰と会おうが自由だ。
しかし…私も来年には29歳になる。可愛くて綺麗なうちにウエディングドレスを着て、Instagramのフォロワーに自慢したい。
私は、14階行きのエレベーターに乗りながら、LINEに登録してある友だちを上から順番にスクロールしていく。
早急にデート相手を見つけるため、知り合いの経営者たちに片っ端からメッセージを送ってみることにした。
LINEを送りながら玄関のドアを開け、パンプスを乱暴に脱ぐ。スマホを持ったままバスルームへ直行し、いつものラベンダーバニラのボディソープの香りで気持ちを落ち着かせた。
― 明日、返信が来た人を食事に誘って、独身の友達を連れて来てほしいってお願いすればいいや。
簡単なことだ。私はそう結論づけ、体中の泡をシャワーで流した。
◆
後日、食事に出掛けたのは、二宮春斗。フリーの経営コンサルタントをしている34歳で、最近は、個人顧客を相手にしたブランディングビジネスも始めたらしい。
「へぇ~、それいいね!でも、ブランディングの方向性って難しいよね。みんなが私みたいにセルフプロデュースに長けてるわけじゃないしさ」
「あはは。麗美ちゃんはセルフプロデュースもできるのか。すごいね」
恵比寿の『鮨屋 小野』のカウンター席で、美味しいお鮨を食べながら、私たちはテンポのいい会話を続けていた。
「まぁ、これでも一応インフルエンサーなので」
実際はまだ細々と会社員を続けているが、これは本当のことだ。
近い将来、私は会社を辞め、インスタグラマーとして食べていけるようになるだろう。
「それはそれは。そんな方と食事できて光栄です」
二宮は笑いながら答え、ビールを飲む。
デートに誘ったのは私の方だが、相手もかなり楽しんでいる様子に、確かな手ごたえを感じていた。
知り合いの経営者が紹介してくれた二宮とは、ビジネスの話題についても対等に意見交換ができて心地良い。
「でも、この女性講師陣は微妙かもしれないです。ちょっと知名度が低いかな。数年前に話題になったモデルの方とかもいるし」
二宮が見せてくれた、新規事業のホームページを見ながら気になるところを指摘した。
「そうかな。でも、彼女らもそれぞれ長所が違うからね」
私は「う~ん」と、彼に同意するようなしないような返事をしながら、〆の大トロの炙りの手巻き「小野スペシャル」を食べる。それから、彼の仕事に対して興味を持ち、食事中は私なりのアドバイスをたくさんしてあげた。
こんなふうに経営者に物申す女の子はなかなかいないし、貴重だろう。
それをできるのが、私の強みであり魅力なのだ。
「ねぇねぇ、春斗さんは結婚願望あるひと?どんな人がタイプなの?」
「なくはないよ。正直、今まではどっちでもよかったけど、生涯をともにするパートナーは欲しいよね」
そう言われ、私はあることを“確信”したのだった。
この記事で紹介したお店
鮨屋 小野
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