SPECIAL TALK Vol.90

~トレーニングの常識をアップデートさせ、“美尻”を切り口に人びとを健康にしたい~

運動、カロリー、栄養素……。最先端の研究と常識のギャップ

金丸:課題ははっきりしたし、解決の糸口も見つかった。でも商品化には至らない。そんな段階が一番もどかしいですね。

岡部:ほんとにそのとおりです。私には25〜26歳で転機がふたつあって、ひとつは、ヒップスラストをサポートする器具「グルーツビルダー」との出合いです。毎年ドイツでヨーロッパ最大のフィットネス展示会が開催されていて、東京ビッグサイトの8倍もあるような会場を見て回っているときに、たまたま「グルーツビルダー」が展示してあり。すぐさま駆け寄りました。

金丸:世界中でまだほとんど知られていないトレーニングなのに、そのための器具と出合うことができたなんて、奇跡ですね!

岡部:すごいですよね。ほとんどの人が素通りしているのを尻目に、ブースにいた製作者に声をかけると、「この器具の素晴らしさがわかる人がいるなんて!」と驚かれました(笑)。翌日も会って話し込み、「グルーツビルダー」を輸入することに決めたんですが、当時は個人事業主なので信用もなく。

金丸:それで法人にする決意をしたのですね。

岡部:はい。それに個人ではなく、チームでやろうと思うようになったもうひとつのきっかけは、盲腸になったことです。簡単な手術ですが、さすがにしばらくは仕事を休まないといけない。当時は1日に12〜13人の来客があり、トレーニングだけで1日12時間、それを365日やっていましたから。

金丸:凄まじいですね。加えて自分自身のトレーニングや研究もしなきゃいけないわけでしょ。それだけ仕事をしていると、生活リズムが崩れてしまいそうです。

岡部:当時は食材を全部宅配で届けてもらい、外に出るのはゴミ捨てのときくらいでした。でも、盲腸になって自分が動けなくなると、ビジネスが完全にストップ。「このままひとりで続けるのは危険だ」と痛感しました。

金丸:それに、岡部さんの目標は「ひとりでトレーナーをすること」ではなくて、日本の女性や日本全体の意識を変えることです。そういう目標は、仲間がいてこそ達成できるものだと思います。

岡部:そのとおりですね。ただ、お尻のトレーニングが広まって事業を拡大していくうちに、いろいろと嫌な思いや悲しい思いもしました。私と一緒に働いていた子が辞めてしまったこともあります。辞める子がいるときは、自分を責めたりこれから同じことが起きないようにと、こちら側が直せることがあるかを学ばせてもらっています。トレーナー業は10年以上やっていますが、経営やマネージメントはまだまだスキルアップしなければいけないと思っています。

金丸:われわれIT業界は、ほかに比べて人材の流動性が高い業界ですから、その気持ちはとてもよくわかります。一生懸命育てても、スッと辞めていく人がいる。私も悲しい思いや悔しい思いを何度もしました。でも去る人を追うのではなく、残ってくれている社員や、これから入社してくる人たちのことを考えようと決めてから、あまり引きずらなくなりました。

岡部:そうですよね。私もそういう人たちは、外部の営業部隊だと考えるようにしています。大臀筋に限らず、日本のトレーニングには、まだまだ遅れているところがあります。それに栄養についての考え方も古い。私たちのチームが最先端を走っていれば、そこから飛び出していった人たちも、少なくとも従来の考えよりはいいものを広めてくれるはずです。私たちが伝えているのは、ただの正しいトレーニングではなく、モヤモヤしていたものがトレーニングでスッキリしたとか、精神面の強化にも関係しています。トレーニングはただのツールであり、そこにはお金では買えない、人と人との信頼関係が構築されます。たとえAIでトレーニングができる時代になっても、絶対に負けない人同士のつながりを大事にしたジムを目指したいですね。同じような啓蒙をしている方もたくさん出てきましたが、フィットネス業界全体で見ると啓蒙が広がっているチャンスです。どんなきっかけでもいいので、健康になるためのフィットネスに出合うきっかけが増えることは、いいことだと思っています。

金丸:ところで、岡部さんは栄養についてはどのようにお考えですか?

岡部:まず、カロリーという数字自体は気にしません。というのも、そもそもカロリーは石炭を燃やしたときのエネルギーを測定するための尺度なので。

金丸:なるほど。人体は石炭を燃やしてエネルギーにしているわけじゃないですからね。

岡部:その代わり、私は細胞が何を必要としているかにこだわります。細胞のなかにあるミトコンドリアが、人間が生きていくためのエネルギーを生み出すからです。

金丸:面白い!「細胞にこだわる」なんて初めて聞きました。

岡部:実は強い細胞を作る上で大切なのが良質な脂肪なんです。だから脂質をいいかたちで摂る一方で、酸化した油やトランス脂肪酸は一切摂りません。

金丸:タンパク質や糖質はどうですか?

岡部:タンパク質はどんなにいいものでも酸性です。細胞のなかは、pH7.4と弱アルカリ性なので、酸性のものばかり摂っていると体内環境もその酸性を通常のpHに戻すことが体にとっては労力になります。だから、アルカリ性の野菜やフルーツと一緒に中和させながら食べるようにしています。

金丸:なるほど。私はグレープフルーツをよく食べるのですが。

岡部:いいですね。グレープフルーツはアルカリ性ですから。でも、フルーツのなかでも桃やメロン、マンゴーといった甘さを感じる果物は、酸性なんですよ。

金丸:フルーツだったら何でもいいというわけじゃないんですね。

岡部:あと糖質は、食後の血糖値を測って自分に必要な量を把握したうえで、酵素玄米で摂っています。糖質を目の敵にする人が増えていますが、一度に自分が処理しきれない量の糖質を摂ることで、体内がダメージを受けるのが問題なのであって、糖質自体は細胞に必要なんです。

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