『つきましては、reika様にお願いしたいことがございます。お時間があるときにでもご連絡頂けたら幸いです』
「えっ!」
思わず声に出して驚く。お別れ会の幹事をやるようにでも言われるのだろうか…。どうやら面倒なことになりそうな予感がした。
メッセージ画面から目を離すと、芽衣がちょうど到着する。
「どうしたの?怖い顔して」
スマホを見る顔が鬼のような形相だったらしく、いぶかしげに尋ねられた。
「いや、別に…」
気を取り直してパーティーに参加したものの、そのメッセージが頭から離れず、いつものような楽しさを感じることはできなかった。
◆
それから数日――
自分だけではないと思い、玲香は『カレンの妹から連絡が来た』という知人を探したが、同じようなメッセージを受け取ったという者は見当たらなかった。
「怖いけど、連絡するしかないのかな…」
よく送られてくる見知らぬ男からのメッセージのように無視すればいい、そう心に言い聞かせてもスルーができないのは、彼女がもうこの世にはいないからだろう。
無視をしたら何か罰が当たりそう…。そんな呪いのようなものを感じてしまう。
『ご連絡遅れて申し訳ございません。道重玲香です。カレンさんの件は存じておりますが、お願いとは一体どのようなことでしょうか』
できるだけ機械的に言葉を選んで返信すると、すぐに返事が来た。
『ご連絡ありがとうございます。詳細は直接お話いたしますので、お時間あるときに姉の自宅までお越しいただけないでしょうか』
メッセージとともに、待ち合わせ場所としてカレンが暮らしていたという住所が添えてある。
まどろっこしい誘いにいら立ちながらも、その住所に玲香は思わず目を見開いた。
◆
「すごい…カレンさんって、こんな部屋に住んでいたんですね」
南青山の高層マンションの3LDK。玲香でもその名を知る超高級物件。そこが生前のカレンの居城だったようだ。
「ひとりで住むには広すぎますが、姉は買い物が好きでしたからモノを保管するにはちょうどよかったのかもしれませんね」
部屋を案内しながら、カレンの妹で、明奈と名乗る女は柔らかな笑顔を見せた。
ショートカットの穏やかな雰囲気の女性で、カレンとまったく印象は違うが、一重で涼しげな目元がうっすらその面影を宿している。
ここに来たのは好奇心のほか、何でもない。玲香にとって謎の存在・カレン。知りたいことがたくさんあったからだ。
彼女の素性、生い立ち、交友関係。そして一番知りたかったのは――。
失礼を承知で、玲香は無垢な振りをして尋ねた。
「あの、突然お亡くなりになられた理由って…」
「申し訳ございません。遺書の…本人の意向でお答えはできないんです」
即答だった。そう言われてしまったら、これ以上何も追求できない。
「そうですか…」
にわかに気まずい雰囲気が流れる。明奈は故人を想っているのか遠い目で窓の外を眺めていた。
玲香は彼女を一瞥し、視線をおもむろに部屋の中へ逃がす。
壁にはバスキア風の前衛的な絵画。シンプルなインテリアだが、大きな天然石の置物やバカラのペンダントランプが高級感を演出している。
そしてなぜか洋服や靴、バッグをはじめとする彼女が持っていたグッズの数々が、部屋中にこれ見よがしに展示されていた。
― 本物、だったんだ。
このマンションもそうだが、そのすべてがカレンの本当の持ち物であることに、玲香は実は驚いていた。
「それで、玲香さんをお呼び出した理由というのが…」
数々の高級品を眺める玲香の背後から、明奈がささやく。玲香がぎこちない微笑みを返すと、彼女は真剣な表情で口を開いた。
「玲香さん。形見分けの作業を、お願いできませんでしょうか?」
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“形見分け”を依頼された玲香。彼女との薄い関係を理由に断ろうとするも…
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この記事へのコメント
インパクトが強いだけでつまらない連載になりませんように。