正体不明のダイレクトメッセージ
カレンの訃報を聞いて1ヶ月経った。
一時期の界隈はその噂でもちきりだったが、話題の賞味期限が切れると、もう誰も彼女のことなど話さなくなっていた。
皆で線香をあげに行こう、とか、お別れ会をしよう、などという声は出ていたが、結局なにも開かれなかった。このご時世を理由に、誰も腰をあげなかったのだ。
顔見知りがひとりいなくなった、ただそれだけのこと。
夜の街は彼女がいなくとも十分華やかで、キラキラした時間はいつも通りに流れている。
その日もまた、玲香はモデルの友人から誘われたパーティーに行く途中だった。
勤務先である青山のクリニックの終業後、玲香は『西麻布 glam』に向けて、そそくさとタクシーに乗り込む。わずかな距離であるが、先方が行き帰りを持ってくれるという好意に甘えない理由はない。
「ありがとうございました」
店には5分もしないうちに到着した。
隠れ家的な存在感を醸し出し、ひときわ目をひく漆黒の壁。その特徴的な外観にピンときて、カレンとの初対面はこの店だったことをふと思い出す。
玲香は店の前でパーティーに一緒に参加するモデルの友人・芽衣に連絡しようとスマホを手に取った。
すると、Instagramに通知が届いていることに気づく。画面を見るとそれは見ず知らずのアカウントからの送信許可申請だった。
いつもなら無視して放置してしまうが、約束の時間よりも少々早めに到着してしまったせいで、不意にメッセージを開いてしまった。
『reika様。突然連絡差し上げて申し訳ございません。私、karen0227の妹でございます。』
karen0227とは、カレンのInstagramの表示名だ。
「妹って…」
彼女に妹がいたことは初耳だ。そもそも家庭環境も家族構成も学歴も何もかも知らなかったのだが。
『ご存じかもしれませんが、姉は2021年10月1日に永眠いたしました。
葬儀は親族のみで行い、現在故人は故郷の墓に両親と共に眠っております。ご友人の方々へのご連絡が遅れて申し訳ございません。』
― 友人じゃないんだけどね…。
丁寧な文章に恐縮しつつ、心の中で否定する。
確かにInstagramの投稿でタグ付けをしあったり、写真でともに写っていたので、ネット上ではそう見えてしまうのかもしれない。
罪悪感を抱きながらメッセージを読み進め、最後の言葉に玲香は絶句した。
この記事へのコメント
インパクトが強いだけでつまらない連載になりませんように。