悪いのは、アナタ Vol.1

悪いのは、アナタ:幸せな家庭と仕事を持つ完璧ママ。身に覚えのない誹謗中傷から始まる悪夢とは

「ママ、遅いよー!」

「ごめんね。ちょっと息切れしちゃって…」

そう言って麻紀は無意識に、少しだけふっくらとしたお腹に右手をそっと添える。

「麻紀、大丈夫?海、ママはね、お腹に赤ちゃんがいるから疲れやすいんだよ」

「そっかぁ。赤ちゃん、お手やわらかにね!」

突然大人びた言葉を使う海を見て、麻紀と寛人は一瞬互いに目を合わせると、大きな声で笑い合った。

「海、そんな言葉、よく知っていたね」

「にひっ、そうかな!」

つられて海も一緒に笑う。


― 最近、本当に家族みんなで笑うことが増えたな…。

麻紀はふと、自分の会社を立ち上げる前のことを思い出す。

生まれて1年も経たずに保育園に入った海は、当初、2週間に一度は風邪をもらってきて休むことを繰り返していた。

広告代理店でマーケティングプランナーとして忙しく働いていた麻紀。度重なる子どもの発熱で早退しがちになり、同僚からの理解も得られず、仕事を続けることが難しいと感じるようになったのだ。

夫も多忙な時期がちょうど重なってしまい、どちらがお迎えに行くか、面倒を見るかなど、けんかが増えるようになっていたのだった。

2人は話し合い、麻紀は会社を辞めた。そして、ひそかな夢であったベビー用品の会社を立ち上げ、ある程度時間に融通を利かせられるようになったのだ。

夫にも仕事を調整してもらい、病児保育なども利用して、なんとか育児と仕事を両立させている。

「私、本当に幸せだなぁ」

「どうしたの、急に。でも…本当にそうだな」

パパとママになっても、寛人はこういうとき、きちんと麻紀の目を見て優しく微笑む。目尻に少しできるシワには、愛情のしるしが刻まれているようだった。



その夜。

海を寝かしつけたあと、麻紀はいつものようにイタリア製の白い革のソファに座り、スマホからInstagramの自社アカウントをチェックする。

― 今日だけでフォロワーが23人も増えてる!コメントも最近多くなってきたな…!

3ヶ月ほど前、昔の知り合いから女性誌のワーママ特集に出てくれないか、と頼まれていた。

様々な分野で働くママを取り上げた企画で、半ページほどのスペースに簡単な本人紹介と、手がけた商品やサービスについて掲載するそうだ。

麻紀の会社はまだ成長途中ではあるが、いくつかのヒット商品を生み出し、それなりに売り上げも上げている。

現在はまだ数人しかいない小さな会社だが、将来はもっと社員を増やして有名にしたいと考えているのだ。

― 会社の良い宣伝になるし、絶好のチャンスよね。

そうして快く取材を引き受けた雑誌が、数週間前に発売された。その影響なのか、最近、会社のSNSのフォロワーも徐々に伸びてきたのだ。

コメントの数こそ多くはないが、大半が商品を褒める言葉で埋め尽くされている。

『他にないデザインと心地良い肌触りが気に入り、友人の出産祝いにも購入しました!』

『おくるみ、可愛くて見た瞬間ポチりました!』

― 良かった…!デザインにこだわった甲斐があったな。あの時は、工場の人と何度も交渉したけど、正解だったな。ん…?

麻紀が気分良くスマホを眺めていると、あるコメントを見つけ、手が止まった。

この記事へのコメント

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No Name
会社の顧問弁護士相談の上、開示請求!
2022/01/29 05:4999+
No Name
インスタを全員に公開設定にしていればネガコメは日常茶飯事だと思うけどな。だからブロックすれば済むと思うんだけど、話の流れはそうはいかないのかな。
2022/01/29 05:3451返信1件
No Name
ママ友の誰かが
・2人目がほしいができない
・姑が育児に口出し、麻紀の商品が欲しくても買えない
・母親になった途端旦那に浮気されたか、旦那がモラハラDV男で家庭が崩壊している

この辺かな
2022/01/29 07:0442
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