甘い墜落 Vol.1

甘い墜落:婚約者との結婚に迷う29歳バリキャリ女。彼女の傲慢な考えが、数々の“悲劇”を招いてしまう

「彼以外を、好きになってはいけない」

そう思えば思うほど、彼以外に目を向けてしまう。

人は危険とわかっていながら、なぜ“甘い果実”に手を伸ばしてしまうのか。

これは結婚を控えた女が、甘い罠に落ちていく悲劇である。


― やりきった!

午前1時のオフィスで掛川美津は、自分の書いた記事のゲラを読み直していた。

観光業界の行方について取材を重ねて2ヶ月。ようやく記事は形になろうとしている。

最後の一文まで読み終え、コーヒーを一口飲む。美津にとってコーヒーは、深夜残業の相棒だ。

週刊誌の編集部での忙しくも刺激的な毎日に、美津は夢中だった。緻密に取材をした記事が世の中に出て、議論を呼ぶ―― その快感には中毒性があった。

深夜のオフィスには、仲間の記者の姿はもうない。LINEを開き、美津は『高下大介』の文字を押す。

『大ちゃん、今から帰ります』

大介とは付き合って4年、同棲を開始してから2年を迎えた。

3ヶ月前には、汐留のコンラッド東京で結婚をほのめかされている。

「美津と、そろそろ結婚したいと思ってるよ」

「でも私、こんなに忙しいし…」

美津が29歳になった夜。大介とそんな会話を繰り広げた。

美津だって、30歳までに結婚をしたいとは思っている。でも、仕事も全力で続けたい。そんな葛藤をやわらげるように、大介は微笑んだ。

「俺が美津を支えるから。仕事がちょっとでも落ち着く頃に、プロポーズさせてね」

大介は32歳の大手鉄道会社勤務だ。東大を出ているからか自然に出世コースに乗り、経営戦略室に籍を置いて堅実に働いている。

―♪

LINEの通知音が、誰もいないフロアに響いた。

『お疲れ!今日は麻婆茄子だよ』

大介のお気に入りの、クマのスタンプと一緒に返事が届いた。

野心のない穏やかすぎる男だが、記者の第一線で戦い続けるためには、大介はぴったりの結婚相手だ。

そう考えていた美津に、予想外の出来事が起こったのだ。

この記事へのコメント

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No Name
大ちゃんに悪気はないと思う…激務を心配してくれてたんだよね🥺
2021/11/19 05:3299+返信3件
No Name
こういう考え方の違いは埋まらない
結婚のために女性が仕事をセーブするのが当たり前だと思っている男と、自分らしく生きていきたい女
結婚前に気づいてよかったな~と思いました。
2021/11/19 05:2699+
No Name
傲慢な考えと書いてあるが、なぜ傲慢?
男性だったら傲慢とか言われなそうでモヤモヤ
2021/11/19 05:2766返信5件
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