SPECIAL TALK Vol.85

~自分のためではなく、チームそしてリーグのために。経営者としての強みを異分野で生かしたい~

たまたま入った旅行業界で、好成績を収め独立

金丸:旅行会社では、どのようなお仕事をされていたのですか?

島田:電話営業のオペレーターです。私が入社したのは、当時世の中に出回りはじめた格安航空券を売る会社でした。雑誌に出した広告を見て、電話をかけてきたお客様の対応をする仕事です。

金丸:こちらから出向くのではなく、電話がかかってくるのを待つわけですね。

島田:はい。でも漫然と電話応対をしていたわけではありません。成績を上げるためには、お客様の話を要領よく聞いて、早く通話を終わらせることが重要で。

金丸:ひとりに長い時間対応していると、次の電話が取れませんからね。

島田:そうなんです。面白いことに、続けているうちにものすごく早く対応できるようになりました。チケットの変更だったり確認だったり、現地の天候を聞かれたりと内容はさまざまですが、「○○さんからお電話です」と言われて電話に出るときには、「あ、多分聞きたいのはこういうことだろうな」とわかるようになってきたんですよ。

金丸:第六感ですか?それとも、次の展開を読む能力がスポーツで磨かれたとか?

島田:そうですね。田舎で人を疑うこともなく伸び伸び育ったあと、東京に出てきたことが原因かもしれません。いろいろな人が住んでいる東京で暮らすうちに、警戒心も芽生えたし、「この人はどんなことを考えて、こういうことを言っているんだろう」と発言の裏を読むようにもなったし。

金丸:いや、今まで田舎育ちの方と何度も対談してきましたが、そんな能力を身につけたというのは、島田さんだけですよ(笑)。

島田:おかげで1年くらいすると、オペレーター兼営業がおよそ500名いるなかで、成績1位に。

金丸:それは、お客様の状況から何を求めているのかを推測し、効率よく対応できていたということですよ。すごいですね。

島田:顧客の動きを読むことやビジネスの面白さを知りましたね。その会社は3年で辞めましたが、辞めるまでの2年間は営業成績トップでした。

金丸:3年で辞めたというのは、何か理由があったのですか?

島田:実はもともと3年で辞めようと思っていたんです。親が自営だったせいか、サラリーマンを一生続けていくというイメージが、漠然となくて。

金丸:今、さらっと「漠然となかった」とおっしゃいましたが、それってすごく稀有なことだと思います。世の中の大半の人は、逆に漠然と定年までサラリーマンを続けるじゃないですか。そういうメジャーな選択肢が、島田さんのなかには最初からなかった。

島田:なかったですね。それで、1995年に法人向けの旅行会社を前職の役員と一緒に立ち上げて、私は副社長に。

金丸:独立されたあと、商売は順調でしたか?

島田:右肩上がりで成長していたのですが、アメリカの同時多発テロを境にガクッと傾いてしまいました。

金丸:旅行会社としては試練のときですね。

島田:「この先どうなるか、ちょっとわからないな」と感じて。当時の事業は高コストだったこともあり、もっと違うやり方でやってみたいと、ちょうど30歳になった年に今度は私が社長として、株式会社ハルインターナショナルを設立しました。

金丸:再び旅行業なんですね。

島田:はい。海外出張専門の旅行会社を。

金丸:第一希望ではなかった旅行業界でも、自身の置かれた場所で腐らずに努力を続けたからこそ、道が拓けていったように思います。

島田:まさにそうですね。だから、最初は自分のなかに「これをやりたい」という気持ちがなくても、飛び込んだ世界で頑張ったらなんとかなるというのは、自分が身をもって学んだことです。

会社を売却して出かけた世界旅行が、人生を大きく変えるきっかけに

金丸:ハルインターナショナルは、今も存続しているんですか?

島田:いいえ。2010年に企業の福利厚生をサポートする株式会社リログループに売却しました。向こうは海外赴任のサポートを手掛けており、こちらはビジネストリップに特化していて、シナジーがありましたから。

金丸:では、バスケットボールとの出合いはそのあとに?

島田:そうなんですが、すぐに出合ったというわけではなく、実は売却後に2年半ほど海外を旅していました。

金丸:ちょっと待ってください(笑)。いきなり旅に、しかも2年半も!

島田:忙しすぎて自分が旅行に行く暇もなかったので。

金丸:それは私も同じです。ところで、どこに行かれたんですか?

島田:アジア全般とオセアニア、それからアメリカとヨーロッパを回りました。アフリカと南米にも足を延ばしたかったのですが、それは叶わず。

金丸:旅といっても、豪華な旅から質素な旅までいろいろありますが、島田さんの場合は?

島田:40歳手前で子どももいましたけど、バックパッカーみたいな旅行でした。ラオスの秘境の奥の奥までバスで行く、なんてこともしましたね。

金丸:うらやましい!私は学生のとき、アメリカの主要な州をグレイハウンドバス(アメリカの安価な長距離バス)で1周したことがあるんですよ。

島田:いいですね!

金丸:グレイハウンドバスの停留所って、結構治安の悪いところもあって、乗ってくる人たちも上品な人たちじゃない。でも、そんなバスに乗って人びとの暮らしや自然、アメリカそのものを感じたことは貴重な経験でした。

島田:私もその旅は、ちょっと間違えれば殺されるかも、というような感じで(笑)。

金丸:それは無事で何よりです(笑)。私にとってあのアメリカ旅行は、学生でお金も持っていないし、失うものがなかったからこそできたのかもしれません。でも、もう一度、ああいう旅をしたいなあと。

島田:私もまとまった時間があったから、じっくり旅することができた。その結果、視野が広がったように思います。風景、人、言葉、食事。国どころか地域ごとに本当に違います。世界は広いなあと気づいたことで、人生の後半は少しでも自由に、そして世の中のために生きなきゃと思いましたね。

金丸:旅というのは、何かを得るために出かけるわけじゃないけど、やっぱり気づかされることがありますよね。

島田:世界観が変わります。ちっちゃいことは気にしなくなりました。でも、その後にバタバタしはじめるのですが。

金丸:ようやくバスケットボールとの出合いですね。

島田:はい。ハルインターナショナルの出資者でもあった道永幸治さんから「仕事していないなら、ちょっと手伝ってくれないか」と声をかけられまして。それがきっかけで、バスケットボールクラブ「千葉ジェッツ」の運営に関わるようになりました。といっても、当初は1年だけという約束で、無報酬のアドバイザーという気楽な立場だったんですが。

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