絶食系女子 Vol.6

26歳で初めて彼氏ができた女。記念日にホテルに連れて行かれたが、緊張のあまり…

『もしもし。俺だけど。彼の件、こっちで対応しておいたから』

“彼の件”とは、今まさに私が頭を悩ませていたことについてだ。

電話の向こうの声に、ほっと胸をなで下ろす。

「ごめん、ありがとう……千秋くん」

私が礼を伝えると、電話口の彼――共同経営者である千秋くんは、やれやれといった感じで話し出す。

『より良いメディアを作っていきたい気持ちはわかるよ。でも、もう少し言い方を考えなきゃ。今のままじゃ誰もついてこない』

「……わかってるわよ。いつも、反省はしてる」

明らかに落ち込んでいる様子が声色で伝わったのか、彼はあきれ半分で笑った。

『ま、編集長の性格はよく知ってるから。今後も何かあれば俺が尻ぬぐいしてやるよ』

千秋くんの言い方には少しだけカチンときたが、これまで本当に助けられてきたので何も言い返せない。

「金曜の定例、遅刻しないでよね」

『はいはい、気を付けますよ。じゃ』

電話を切って、PCの画面に向き直る。今日もタスクが山積みだ。

千秋くんのおかげで、安心して業務に取り組むことができる。

彼とは、本当に相性がいい。私の欠落した部分をすべて補ってくれる、良きビジネスパートナーだ。

彼とこうして今でも良好な関係でいられるのは、彼が私の“恋人ではなくなった”からだ――……。

恋愛より趣味が大事


画商をしている父の影響で、幼い頃からアートに興味があった。

学生時代は誰とも話が合わず、さらに気の強い性格も相まって、クラスでは常に孤立していた私。もちろん恋愛なんて無縁だったし、別に恋人が欲しいとも思わなかった。

大学はお茶の水女子大学に入学。美術史コースを専攻し、やっと気の合う友人ができて楽しいキャンパスライフを送っていた。

とはいっても、恋愛には相変わらず興味を抱けないまま。

友人たちから他大学の男子学生を紹介されて、デートしたこともあったし、好意を寄せられたこともあったが、全然ピンとこなかった。

その後、第一希望の大手出版社に新卒で就職し、念願だった美術誌の編集者に。

仕事はとても楽しく、自分にも向いていると思ったが、編集部内での派閥や嫌がらせ、セクハラなど、仕事以外のところで精神を摩耗することが多い職場だった。

このときは仕事に追われていて、恋愛のことなんて考える余裕がなかったので、恋人ができるはずもなく…。

転職を考えていた26歳の頃。公私ともに関わりのある写真家の誕生日パーティーで出会ったのが、3歳年上の千秋くんだった。

「高市さん、自分でWebメディア立ち上げてみたら?」

職場環境に悩んでいると打ち明けた私に対し、Webマーケティングのコンサルティング会社を経営している彼は、そう提案した。

「でも私、人付き合いが苦手だし、メディアの運用なんてとてもじゃないけどできないと思う」

「大丈夫。外部とのやり取りや、広告の営業なんかは俺がやるから。もちろん、PV数の伸ばし方とか、上手に利益を出す方法は教えられるし」

その後、彼の全面的なサポートを受けて会社を立ち上げた。当時の私は、彼がなぜこんなにも親切にしてくれるのかがわからなかった。

のちに、それは彼が私に好意を寄せてくれていたからだと知る。


「高市さん。俺と付き合ってみない?」

千秋くんから告白されたのは、一緒にWebメディアを立ち上げて半年後。よく打ち合わせに使っていた、恵比寿の小さなカフェでのことだった。

「前にも話したと思うけど、私、今まで人を好きになったことも、付き合ったこともないの。だから、付き合う......


【絶食系女子】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo