盛りラブ Vol.4

「リアルで会うのはまだ怖い」ズボラを隠して嘘をついた女。そこでとったある行動とは?

週末。芹奈は料理教室の扉を開いた。

芹奈の母親と同い年くらいに見える優しそうな女性の先生が、笑顔で出迎えてくれる。

今日習うメニューは、和風ハンバーグ。

生徒はほかに5人いたが、感染症対策で、生徒同士で協力して作業をすることはない。先生のデモンストレーションを見てから各自で作業を始めた。

作業開始から少し経った頃。

芹奈は1人の生徒の姿に、思わず目を奪われてしまった。芹奈よりやや年上に見える、スラリとした黒髪の女性。初心者が集まるクラスの中で、1人だけ圧倒的に手際が良い。

そして、所作の一つひとつが美しい。

― 素敵な女性…。

手を止めてボーッとその女性に見とれていると、アクリル板越しに目が合う。黒髪の女性は、目尻を下げて少し首をかしげながら笑った。


結局、芹奈は慣れない料理に大苦戦してしまった。

先生が、手取り足取りつきっきりで教えてくれて、料理はなんとか完成。感染症対策の一環として、その場で食べるのではなく、持ち帰り用のパックに移した。

― 無事に終わったわ。

「ありがとうございました」

ホッとした表情で教室を出たとき、素敵な黒髪の女性が「お疲れさま」と声をかけてきた。

「よく頑張ってたわね」

「…は、はい。普段まったく料理しないので、大苦戦しちゃいました」

彼女はフフフと笑いながら「私、園田美羽と言います」と名乗った。慌てて名乗り返すと、美羽はゆったりとした口調でこう聞く。

「どうして料理を習ってみようと思ったの?」

「…最近、好きな人ができたんです。まだ会ったことはないんですけど、リモートで何度もデートをしてて」

「へえ。すごく今っぽいね」

長い髪を揺らして歩く美羽。体の線は細いのに、不思議な迫力を感じさせる女性だ。

「この前、彼に噓をついて『料理ができる』って言っちゃったんです。本当は私、夜ご飯をポテチで済ませちゃうような人なんですけど」

芹奈の話に、美羽はふっと笑った。

「んふふ。背伸びしてるのね」

「本当の自分の姿は絶対に見せられないので。彼には、美羽さんみたいな素敵な女性だと思われたいです」

駅まで談笑した2人は、改札の前でLINEを交換し「また会いましょう」と挨拶して別れた。



早速、その日の夜に美羽から連絡が来た。

「ねえ、今度お茶でもしない?もっと色々話してみたいな」

こうして、週末に2人で会う約束をしたのだった。

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