瑛太からの返信はシンプルだった。
『急にそんなこと言われてびっくりしちゃいました。でも、嬉しいです』
素っ気なく思えたが、返信が来ただけで奇跡だと芹奈は舞い上がる。はやる気持ちを抑え、芹奈も数日あけて返事を送った。
『ワーケーションに伊勢志摩を選んだ理由って、なんですか?』
『主要クライアントがいるのと、いい感じのリゾートホテルがあったからかな!』
こうして、2人のやりとりが始まった。
毎日のささやかな内容を、1日2往復くらい送りあう。そのなかで、幸いにも瑛太には妻と彼女もいないことがわかった。
だから、芹奈は勇気を出して瑛太にこう提案したのだ。
『今度、Zoomでお話しませんか?』
◆
数日後。ついに約束の日がやってきた。芹奈はソワソワしながら、Zoomにログインしたパソコンの前で待機する。
「初めまして。瀬谷瑛太っていいます」
一人暮らしをしている水天宮の部屋に、初めて聞く彼の柔らかい声が響いた。
「初めまして。神谷芹奈です」
芹奈は頬を赤らめながら、完璧なお化粧を施した顔をほころばせる。ノースリーブのブラウスと、背景に映るように置いたオレンジの花が、彼女の雰囲気をますます華やかに演出していた。
「瑛太さん、思ったとおりの素敵な人ですね」
芹奈がそう言うと、画面の中で瑛太は照れながら笑った。
「芹奈さんも、思った通りというか。素敵すぎて、ちょっと緊張しちゃいますね」
目を細めて話す瑛太。特に、最近日本が銀メダルを取った女子バスケの話で盛り上がり、1時間近く夢中で話したあとZoomを切る。
「瑛太さん、楽しかったです。ありがとう」
退出の赤いボタンを押した瞬間、芹奈はそのまま後ろにパタリと倒れた。
そのとき、一握りの罪悪感が芹奈を襲う。
芹奈の恋愛がいつも続かないのは、理想が決まりすぎているせいばかりではない。本当は、理由があるのだ。
天井を仰ぐように床に寝そべり、そのまま足の指で器用に、床に転がっているチョコレートの袋を手繰り寄せる。
首だけ曲げて時計を見ると、現在の時刻は21時半。
― 今日の夜ご飯は、チョコレートとポテチでいいや。
寝転んだまま、チョコレートを口に放り込んだ。こんなふうにその辺にあるお菓子で夜ご飯を済ませてしまうことが、週に3日はある。
芹奈は、致命的に料理ができないのだ。
「瑛太さん~かっこい~絶対ゲットする~♪」
鼻歌まじりに歌いながらポテトチップの袋をあけ、ボリボリ音を立てながら食べると眠気に襲われた。
芹奈は、食べかけのポテトチップの横で、上は勝負服、下は部屋着のステテコというチグハグな格好のまま、深い眠りに落ちていく。
電気も消さず、メイクも落とさず。
そう。
本当の芹奈は、周りには見せられないくらいの“ズボラ女子”なのだ。
▶他にも:「今年こそ、結婚!」年収800万・高学歴女の悲惨な婚活事情
▶Next:8月27日 金曜更新予定
芹奈は男をコレで選ぶ。彼女の『男のチェックリスト』の中身
この記事へのコメント
あんな文章送ったら速攻削除されるかと…
題名を見たときに一瞬、盛りブラと見えたのは私だけでしょうかw
美ごもり連載でブラトップの話も有ったからか😆