2人が付き合い始めたのは、1年前の夏。きっかけは、突然の告白からだった。
「ずっと桃香のことが好きだったんだよね。友情が崩れるのが怖くて言えなかったけど、結婚前提で付き合ってほしいんだ」
実は桃香たちは、元々幼なじみだったのだ。だからお互いの性格も親の顔も、よく遊んでいる友達の顔も知っている。
そのせいで、これまで友達としてしか接してこなかった陽介を「恋人として見れるのか」最初から不安があった。
でもこのとき、桃香はすでに29歳。
20代後半からがんばってきた婚活では、うまく成果を出せず疲れ果てていた。そんなとき現れたのが、陽介だった。彼の優しくて穏やかな性格は昔からよく知っている。
― 結婚するなら、陽介みたいな人がいいのかも。
そう思い、彼の勇気ある告白を受け入れることにした。
東京の壮絶な婚活市場で乾ききった桃香の心を、陽介が潤してくれたのだ。
陽介と付き合い始めてからは、近場で小旅行をしたり食事に行ったりと、カップルらしいことをしてきた。
「桃香の性格とか考えてることとか、ほとんどわかるから一緒にいてラクだわ」
陽介はこう言っていた。それには桃香も共感できる。
婚活していたときは、心からデートを楽しむことがなかなかできなかった。それと比較し、陽介とのデートは刺激こそないものの、安心して楽しむことができた。
ただ手をつないでデートしたり、2人の男女としての“新たな関係性”に戸惑っていた部分は正直ある。
そして交際スタートから8ヶ月後。宣言通り、陽介はチャペルを貸し切りにして、ティファニーのエンゲージリングを手にプロポーズしてくれたのだ。
コロナ禍で結婚式もできないなか、盛大にプロポーズをしてくれたのは嬉しかった。劇的な盛り上がりはなくても、この穏やかな幸せが続くといいな、と桃香は思った。
― 恋っていうより愛だけど、陽介のことは人として好きだし、きっとうまくいくよね。
こうして桃香は、陽介の部屋に転がり込むような形で同棲生活を始めるようになったのだった。
このときはまだ、陽介の“ある部分”にドン引きし、その後の生活に大きな影響を及ぼすことになるなんて、想像もしていなかったのだが。
この記事へのコメント
入籍直前にこんな険悪になったら、この先思いやられそうで。