2人は人形町にある1LDKのマンションで、同棲を始めることになった。
桃香は大手町の歯科医院で歯科衛生士として働いていて、残業はほとんどない。それでも陽介の提案で、家事はキッチリ分担することになった。
― やっぱり陽介はいい夫になりそうだな。良かった…!
しかし、そう安堵していたのもつかの間。陽介の“ダメな部分”が、次々露呈するようになったのだ。
それはある休日のこと。桃香が友人とのランチから帰宅すると、彼がリビングのソファでゴロゴロとくつろいでいた。
「ただいまー。…陽介、今日掃除当番だったよね?リビングと寝室、掃除機かけといてね」
「ん?もう終わったよ?」
「えっ…?」
その言葉に桃香は、リビングの床に視線を落とす。そこには郵便物や雑誌が散らばっていて、とても掃除機をかけた後とは思えない状態になっていた。
しかも部屋の四隅をチェックしてみると、あろうことか髪の毛や干からびたコンタクトレンズが落ちているではないか。
― 待って、ありえないんだけど…。
衛生観念が合わないのは、かなりキツい。
それでも文句ひとつ言わず家事に協力してくれるので、最初は桃香も指摘できずにいた。
しかし同棲を始めて2週間経っても、そんな状況が改善されることはない。
むしろ桃香が掃除をしていると、未開封の洗剤や未使用の靴下が家のあちこちから出てくることが続き、ついに我慢の限界が来てしまったのだ。
「ねえ、同棲始めて早々悪いんだけど…。この家の中、大掃除してもいい?」
これから暮らしていく部屋が汚すぎるなんて、ありえない。そんな思いから、陽介の思いも無視して勝手に大掃除を始めたのだ。
最初は陽介も「部屋のあちこちを見られるのは恥ずかしい」と抵抗していたけれど、桃香の剣幕に怯えたようで、もう何も言ってこなくなった。
「はあ、スッキリした…。ねえ陽介、せっかくキレイにしたんだから、これを維持できるように生活して?物は決められたところに置いてほしい」
「ああ、わかったよ…」
桃香の小言に、陽介はあからさまにイヤな顔をしている。
― あれ?同棲してちょっとしか経ってないのに、もう険悪な雰囲気になってる…?
桃香だって、母親みたいな小言は言いたくないのだ。だからせめて、2人で暮らす部屋は清潔に保っていてほしい。
それなのにしばらく経つと、陽介はまた外したコンタクトレンズを、ゴミ箱ではなくテーブルにそのまま置くようになった。
「ちょっと!それ、ちゃんとごみ箱に入れてほしいな」
「え?…悪い悪い。つい癖でさ」
― 陽介って、こんな人だったっけ…。これから私たち、うまくやっていけるのかな。
桃香が不安に思っていた、そのとき。陽介が突然口を開いた。
「ねえ、桃香。ちょっと提案があるんだけど…」
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陽介が、桃香に提案したこととは…?
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この記事へのコメント
入籍直前にこんな険悪になったら、この先思いやられそうで。