―2019年5月―
遮光カーテンを開け、朝陽を部屋に入れる。気持ちいい青空が目に入り、思わず網戸にして外の空気を取り入れた。
朝の情報番組をぼんやりと眺めながらコーヒーを一杯のむ。とても好きな時間だ。
心地よい風を感じながら、私はスマホを手に取った。
<Taketo:梨香子ちゃん、今度はいつご飯行けるかな?>
<雄馬:おはよう~!昨日は楽しかったね^^>
複数の男性からのアプローチのメッセージが届いているのを見ると、さらにいい気分になる。私はモテているという事実に、自尊心がくすぐられるのだ。勉強でも、仕事でも、他では決して満たされない部分の自尊心が。
すると、スマホがまたもやブブっと震えた。
<光平:おはよう!今日も1日頑張ろう~>
玉井光平。大学時代からの友人だった彼とは、去年から付き合い始めている。もうすぐ1年、交際自体は順調。
<梨香子:おはよう!いい天気だね。光平、今日は仕事終わるの遅いの?>
適当な返信を打って、私は出社するための身支度を始めた。
◆
丸の内をヒールでかつかつと歩きながら、行き交うサラリーマンを目で追う。
スーツを着ている男性が好みの私にとって、この通勤中の風景は悪くない。仕事に向かうための、唯一のモチベーションと言っても過言ではない。
ちなみに、どんなに女性の社会進出が進もうと、私はキャリアを築いていくつもりなど毛頭ない。仕事なんていう退屈なものからは一刻も早く卒業し、優雅にのんびりとした生活がしたいのだ。
いまどき珍しがられるし、人によっては敬遠されるから最初からオープンにはしないけれど…早く寿退社して、専業主婦になりたい。
私は、今29歳。そろそろ手を打たなければいけないって、頭ではわかっている。
大手証券会社に勤める光平は、早稲田大学卒。身長173cm。ルックスも、私好みの塩顔。悪くはない。
悪くはないんだけど…。
なにかが、物足りない。
この私が、ここで手を打っていいのか?と。自分の中に潜む野心がむくむくと、その姿を露わにする。
だって、これまでも似たような男性とは何人も付き合ってきた。プロポーズされたこともあった。それでも、もっと、もっと他にいるはずと思って、ここまで来たのだから…。
だから、まだここでは諦められない。
光平には申し訳ないけど、平行して色んな出会いの場に顔を出し続けている。デートもしたりする。だけど、二股をかけたり、体の関係をもったりはしない。自分なりには節度をもっているつもりだ。
― そして。
その日、ある食事会のお誘いを受けたのだけど…。
この記事へのコメント
慶應
総合商社
絢さん、なかなか言いますねえ。
自分では世界で一番美しいとお思いのようだけど。
で、あまりにも女王様と言うか、他の人を見下し過ぎてる感も。そりゃキャバ嬢顔負けって位ド派手な人より、絢みたいにシックな服装で丁寧な言葉遣いの女性の方が選ばれるよね。