―火曜日―
美加は、芝公園近くのIT企業でアプリの開発をしている。
最近は、社内全体で出勤率を30%以下に抑えるために出勤日が決められているから、今日もテレワークだ。
おかげで同僚の目を気にすることもなく、海斗とLINEできる。
ノートパソコンで執筆する海斗は、常にLINEをPC上で立ち上げているらしく、返事が早い。
美加はLINEのラリーを続けながら、パーティーで交わした会話も含め、海斗の個人情報を整理する。
海斗は、鎌倉出身の32歳。付属中学からエスカレーターで名門私立大に進学し、卒業後は、脚本家として活躍している。
― 完璧じゃん!
美加には「男女の年齢を足して60歳のカップルは、結婚適齢期」という持論がある。
― 28歳の私と、32歳の海斗さん。ほーら、完璧。
そろそろ恋がしたい、と思っていただけで、今すぐ結婚したいわけではない。それでも心がニヤついてしまう。
長野県出身で大学から上京した美加。当時は、サークル仲間とレンタカーを借りては、しょっちゅう湘南へ遊びに行っていた。なんなら大学時代に付き合っていた彼氏も鎌倉出身だった。
だから否応なく鎌倉の話で盛り上がる。もちろん元カレのことは伏せて。
しかし、海斗にあっさり見抜かれる。
『もしかして、美加さんって、鎌倉に住んでる人と付き合ったことあるんですか?』
美加は、ドキリとした。
― さすが脚本家。LINEの文面から、相手の心が読めてしまうのかしら。
『実はそうなんです。大学時代の元カレが鎌倉の人で…。嫌いになりました?』
『ははは。嫌いになりませんよ。むしろ親近感が湧きました』
―水曜日―
午前中、クライアントと麻布十番で打ち合わせ。
その会社にはもう何度も訪れているが、この日はいつもと違い、美加はソワソワが止まらない。海斗の自宅兼仕事場が、麻布十番にあると知ったからだ。
駅のエスカレーターをあがって、クライアントの会社まで向かう。そこに海斗がいると思うだけで、見慣れたはずの商店街が、初めて見たかのような色鮮やかな景色に思えた。
きっと浮かれていたのだろう。
12時前には打ち合わせが終わったので、美加は勇気を出してLINEした。
『今、仕事で麻布十番にいるのですが、もし御都合よろしければランチとか、いかがですか?』
相変わらず海斗の返事は早かった。
『ちょうどお腹が空いていたんです。すぐに出ます』
美加には「価値観が合う男よりも、タイミングが合う男のほうが良い」という持論もある。
海斗は10分足らずで来てくれ、お気に入りだというオシャレな創作うどん屋さんに連れていってくれた。
彼はうどんを丁寧に食べながら、美加の仕事について興味津々に尋ねてきた。
二人きりで会うのは初めてだったから、最初は緊張していたが、彼の頷きや相槌が心地良くて、美加は、ついつい喋りすぎてしまった。
「美加さんって自立してて、仕事もできて、素敵な女性ですね」
まるで映画のようなセリフを海斗はさらりと言う。
― これが脚本家というものなの?好き!
そしてホームパーティーのときには気づかなかったが、海斗は食べ方が上品で、姿勢も綺麗だ。
この記事へのコメント
テュリャテュリャテュリャテュリャラーラー♪
仕事に集中しないからデザインもダメ出しされちゃうんじゃんね😂