ヤドカリ女子 Vol.7

容姿に触れ、怒鳴るモンスタークライアント。「聞き分けのいい女」を演じた代償とは

PR会社で多忙を極める28歳の綿谷あんな。掃除ができず、散らかった部屋に帰りたくないので、求愛してくるいろんな男のもとを毎晩泊まり歩く。

母親の“呪い”に、乱れた生活。そして歪んだ自尊心…。

これは、そんな女が立ち直っていくストーリーだ。

◆これまでのあらすじ

男として見ていなかった後輩の祥吾に掃除のサポートをしてもらい、部屋を片付けられたあんな。お礼に誘ったランチの場で“完璧な女”を演じていることを、見透かされていたと知る。

▶前回:意識し始めた後輩男子が、自分にだけ親切にしてくれる…。そのショックな理由とは


―『綿谷さんの印象は…。めちゃくちゃ頑張ってるように見えて…』

あんなは職場のデスクでキーボードの上に指を置いたまま、祥吾の言葉を思い返していた。

寝癖が隠せない天パに、垢ぬけない黒縁眼鏡。ひょろりと痩せた体に纏うのは、お世辞にも質が良いとは言えないスーツ。

―『そんなに頑張らなきゃいけないなら、完璧でいることは速攻で諦めます』

あんなを気遣うわけでも責めるわけでもない、本当に何の気もなさそうな普段通りの口調。それがかえって、心をえぐった。

「ゆとり世代のナヨナヨした男の子」という印象だった祥吾は、最初からあんなの虚勢と本質を見抜いていたのだ。



それから数日後の会議室。

「話の分からない人だな!」

あんなは数人の視線が向けられる中、初対面の人間に怒鳴り散らされていた。

「それをどうにかするのがあなたの仕事なんじゃないの!?」

大声を張り上げる大柄な男は、新しいクライアントだ。担当についたあんなが挨拶したときから、ずっとこの調子だった。

「もちろん誠心誠意ご提案はさせて頂きます。ですがご要望の内容だと、現在の予算を大幅に上回っていらっしゃるので」
「そんなもんわかってるんだよ!」

いや、わかってないでしょ。平身低頭しながら、あんなは心の中で溜息をつく。彼が提示する予算は50万円。一方で、希望のPR方法だと80万円はかかる。

「そこを何とか考えて提案してこいよ!」

会議に参加する上司も同僚も、固唾を飲んで見守っている。男は頭を下げるあんなににじり寄り、ふんと鼻を鳴らして笑った。

「あなたね、綺麗だから今まで何とかなってきたのかもしれないけど、俺はそんなに甘くないからね!」

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