マテリアル夫婦 Vol.2

「子ども作ろうよ!」と夫に懇願されて…。27歳・妻が抱いた妙な違和感

「ただいま〜」

「おかえり〜。ちゃんと20時までに帰らないとSNSが炎上しちゃうよ」

まだ20時過ぎなのに、“あの三枝マサル”が家にいるなんて変な気分になる。

VRゴーグルを装着して、だだっ広いリビングに一人で突っ立っているマサルの姿が目に入り、思わず笑ってしまった。

「何してるの?」

「こんなご時世だから旅行に行けないじゃん?だからVRで宇宙旅行してた。家にいてもつまんないからさ〜」

マサルは、毎晩夜遅くまで派手に飲み歩いているような破天荒な男だった。お互い束縛は一切せず、結婚してからも自由気ままな生活を送ろうと誓いあっていた。そんな関係が心地よかった。

しかし最近、起業家のオトモダチが飲酒や女性関係で問題を起こし、立て続けに世間を騒がせていた。無駄に動けば、マサルまで火の粉をかぶる恐れがあるため、自粛生活を送らざるを得なくなっている。

「でもさぁ、家に“あの沢山リカ”がいるって、まじで勝ち組だよな。こんな贅沢を味わえるのは、世界中で俺だけだよ」

マサルはねっとりとした視線でこちらを見つめ、強く抱きしめてきた。

「なぁ、リカ。いいだろ?子ども作ろうよ」

髪を撫で背中をさすり、くびれをなぞり尻を弄り、自分の腕の中に “沢山リカ”という女が存在しているのだということを確かめているようだった。

「子どもは当分作らないって言ったよね?なんでいきなり…」

「なんか最近つまらなくてさ〜。色んな事業考えてみたけど、子育てが一番クリエイティブなことだと思ったんだよね。“三枝マサル”と“沢山リカ”の子どもだぜ?最高の遺伝子を掛け合わせたらどうなるのか、それ考えると久々にワクワクしちゃって」

マサルは私の上で、目を輝かせながら語った。

世間からはお金目当てだと思われているけれど、常に好奇心に満ち溢れ、ワクワクを探し続け、目を輝かせて未来を語るマサルを心の底から好きになって結婚した。

「どうしてリカは、子ども作るのが嫌なの?」

「私は…10代の頃から芸能の世界にいたから、ちょっと休みたいっていうか。やっと“自分”として生きていけるようになったから、もうちょっと自分の人生を楽しみたいの。それに、マーくんともゆっくり過ごしたいし。一緒に世界一周しようって約束したじゃん?」

マサルは私の話よりも、ブラウスのボタンを一つ一つ外すことに夢中になっていた。私が話すのをやめると顔をあげ、片方の口角だけを上げた。


「コロナになっちゃったからなぁ〜。とりあえず世界一周はVRでしようよ」

私は思わずため息をついて、下に伸びかけたマサルの手を制止した。真面目な顔で、彼を見つめる。

「それに子どもはペットじゃないんだから、お気楽に考えないで。妊娠も出産も子育ても想像以上に大変なのよ」
......


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