「なんで、そんなこと聞くんですか?」
彼女はそれだけ言うと、また前に向き直って、指先でカクテルのグラスに触れる。
「あ、いや。えっと…」
裕紀は明らかに動揺してしまった。
これまで決して恋愛経験が少ない方でもなく、どちらかと言うとモテてきたタイプなのに、えりかの前ではどうも“いつも通り”ができなくなる。
「せっかく二人きりで飲んでるんだから、そんな話はしなくていいじゃないですか。ね?」
あたふたしていると、次はあどけない少女のようにニッコリと笑って言った。
「それよりほら。私、もう全部飲んじゃいましたよ?」
丸く削られた氷の入ったグラスを目の高さまで持ち上げて、カランと鳴らす。その仕草が大人っぽくて、綺麗で、そして言葉の端々から彼女の芯の強さを感じさせる。
とても26歳には思えない雰囲気だ。
「じゃ、じゃあ…。同じものを2つください」
マスターにそう言って、裕紀は動揺を悟られないようにすることしかできなかった。
追加で注文したお酒も全部飲んでしまうと、ほろ酔い気分のまま店を出る。
夜も更けてきたので、タクシーを拾って彼女を自宅まで送り届けようと世田谷通りを歩いていた、その時。
右腕に、彼女の華奢な手が絡められたのだ。
「えっ…。どうしたの」
裕紀は平静を装って尋ねながら、彼女の方をチラリとのぞき見る。するとえりかは平然とした顔をしていた。
「言ってなかったんだけど、私のマンションすぐそこなんです」
そう言って、ジッと見つめてくる。その目は完全に裕紀を誘っているようで、思わずこう口走ってしまった。
「じゃあ今から、えりかさんの家で飲み直さない…?」
なるべくカッコ悪くならないように意識しながら答える。彼女にはいつもペースを乱されてしまうな、と反省しながら。
「はい、ぜひ!すぐそこって言っても、ちょっと歩くのでタクシー乗っちゃいましょうか」
するとえりかは、絡めた腕をさらにギュッと抱きしめて、先を急ぐように歩き出したのだった。
▶他にも:「嘘でしょ!?」甘い夜を過ごすはずが…。ホテルの一室で、27歳女が男から告げられた驚愕の事実
▶︎NEXT:3月2日 火曜更新予定
家で二人きりになったえりかは、さらに豹変し…?
東京カレンダーが運営するレストラン予約サービス「グルカレ」でワンランク上の食体験を。
今、日本橋には話題のレストランの続々出店中。デートにおすすめのレストランはこちら!
日本橋デートにおすすめのレストラン
この記事へのコメント
沢尻エリカ?
戸田恵梨香?
それとも唐田えりかかしら