「男なんて単純よ…」イケメン経営者を落とすため、インスタのストーリーを活用する女の手口

小春が考えた作戦は、恭介の家から近いと思われる東新宿のカフェに仕事帰りに立ち寄り、毎日ストーリーを投稿する、というもの。

“立ち寄る”といっても、職場がある品川からわざわざ、山手線と副都心線を乗り継いで東新宿まで向かうのだから、本当はかなり不自然なのだが…。

あくまで、仕事終わりに一息つきたくて、YouTubeで“車の動画”を見るOLを演じるのだ。綺麗にハートが描かれたカフェラテを撮影し、Instagramのストーリーにその写真を載せる。

"去年のSUPER GTの動画は、何度見ても興奮する！"　と一言を添え、位置情報を追加するのも忘れない。

もちろん車なんて興味ないが、あくまで恭介と共通の接点を見出すためだ。

恭介：顔はタイプじゃないのに、なぜか気になる

ーこの子は、いったい何者なんだ？

恭介は、カッシーナの黒レザーのソファに腰を下ろした。

最近は従業員を皆リモートワークにしたため、恭介も自宅で仕事をしている。仕事が一段落すると、各SNSをざっと見ることが多いのだが、数日前から気になることがある。

Instagramで繋がった小春という女の子が、なぜか毎日のように恭介の近所のカフェにいるのだ。時間は19時頃で、ご丁寧に位置情報まで付いている。

しかも、『今日は去年のSUPER GTの動画を見ながら』などと、JAFのレースに興味があるという一言が添えてある。

ー車に興味のなさそうな顔をしているのに、まさかマニュアル車の運転もできるのか？

顔は、恭介のタイプではないが、見た目だけがいいモデルには飽き飽きしている。

ー美人すぎず、純粋で可愛らしい子に身も心も、癒されるのもいいかもしれないな。

面倒だから、できれば彼女にしたくはないが、遊び相手にはちょうどいいかもしれないと考え、恭介は、小春を落とすことに決めた。

ー女はどうせ、男を金があるかどうかでしか見てないから。こんな女、すげぇ簡単だろうな。

すぐに恭介は、小春にDMを送ることにした。あえて、フランクに。

『恭介：いつもそのカフェにいるね。俺も近くにいるから、行っていい？笑』

『小春：え、今からですか？』

『恭介：うん』

『小春：じゃあ、テーブル席に移動しときます。笑』

小春は、予想通りInstagramでしか繋がっていない男の誘いに乗ってきた。恭介は、グラスに残ったコーヒーを飲み干すと、モンクレールのダウンを羽織りマンションを出た。

◆

「小春ちゃん？初めまして！急にごめんね。ビックリしたでしょ」

「いえ。暇してたので」

小春はニコリとはしたものの、初対面のくせに、全く緊張した様子はなく余裕が見られる。

ーこの女、純朴そうな顔してるけど、意外と男慣れしているのか？

「これ、食べる？甘いもの好きかなって」

恭介は、隣の席に腰を下ろし、さっき注文したホワイトモカケーキを小春に差し出した。

モデルじゃないから、甘いものは喜んで食べると思っていたが、さっきの反応からすると意外と塩対応されるかもしれないと、急に不安になった。

ところが、恭介の予想は裏切られる。

「あ！これ、さっき買おうか迷ってやめちゃったケーキだ！ありがとうございます〜。うれしいなぁ」

小春は、弾けそうな笑顔で答えた。

「あぁー良かった。喜んでくれて」

恭介は、その様子に不覚にも胸が熱くなる。

ーケーキごときでこんなにも喜んでくれる女って、最近いなかったな…

甘いものを食べないどころか糖質もカットしている女が多く、美味い鮨屋に連れていっても、「シャリは極小で」などと平気で言う女ばかりだった。

そのくせ、高いシャンパンをねだる。彼女たちにとって、シャンパンの糖質はノーカウントなのだろう。

「この辺に住んでるんですか？」

小春に聞かれ、ふと我に返る。

「うん。東新宿。小春ちゃんは？」

千歳烏山や経堂に住んでいても、世田谷としか言わない女をたくさん見てきたから、きっと小春もその類だと予測した。

ところが、小春は臆することなく恭介の質問に答えたのだ。

「私は、溝の口です。わかります？田都の」

「そうなんだ。わかるよ。三茶の次くらい？」

「次の次の次…くらいですかね」

小春が笑いながらそう答えたとき、恭介の心はふわふわと甘い綿飴に包またように、心地よくなった。

そして、気づいた時には小春をデートに誘っていた。


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ついにデートの約束をとりつけた小春。恭介を落とすための次の作戦とは？

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