忘れられない“あの日” Vol.5

「私の荷物はどこに隠したの…?」男の部屋で屈辱を受けた、セカンド女の悲痛な叫び

今日が、何でもない普通の日なら良かったのに……

“記念すべき日”に起きた最悪な出来事は、悲しみや怒りなどあらゆる感情が倍増して

一生忘れることができない思い出として心に刻まれる


この連載では、“記念日”にまつわるストーリーを東京カレンダーのライター陣が1話読み切りでお送りする

▶前回:彼女との約束をすっぽかし、24時間音信不通になった男。インスタで発覚した、彼の驚きの行動


「最近よくゴハン行ってる子、ユイと同じ名前なんだ」

タバコをくわえ、携帯片手にベランダへ向かうショウちゃんが言う。

胸がヒリつくのと同時に、悲しい未来図が脳内に黒く広がった。

「可愛いの?漢字は?」

布団の中から顔を上げ、一応興味があるフリをしてみせる。

「うん、美人だよ。唯一の唯。そういえば、ユイは何て書くんだっけ」

・・・覚えてないんだ。

「結ぶに、衣服の衣。そんなことより来週末どうする?私の転職祝い。ショウちゃんの家で鍋でもいいよ」

私は、テーブルの上の冷えたデリバリーのピザにタバスコを振りかけ、口に放り込む。

「鍋いいね。でも、まだ予定わかんないな」

大丈夫、傷つかない。

私のために予定を空けない君に、傷つくステージは、とっくに過ぎた。

「いいよ。また連絡して」

服を着て、ベロア生地のシュシュで髪をまとめながら玄関へ向かう。

「帰りまーす。またね」


外へ出ると、冷たい風が体温を奪い「寒い」と思うのと同時に携帯が鳴った。

『ショウ:気をつけて帰れよ』

・・・やめてよ。

こうやって、中途半端に優しくするから私は勘違いしそうになるんだ。

呼ばれる度に、今日で最後って思うのに、会えると嬉しくて、断ち切れない繰り返し。

"軽い女を演じること"

そうすることで、本気になりそうな自分の気持ちにナイフを刺した。

初めて部屋に行った、秋晴れの日

病棟でのナースの仕事に疲弊して、近所の内科に転職したいと話した、土砂降りの日


どんなときも優しく抱きとめてくれたショウちゃんの、温かい手を思い出す。

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