「できれば幼稚舎、ダメなら青山」
夫の一言で始まった息子のお受験。
渋谷区神宮前アドレスを手に入れ、理想の結婚をしたはずの京子だったが、とある幼児教室の門を叩いた日から、思いがけない世界が待っていた。
皆一様にネイビーを基調とした清楚な服装をしているが、そこは高学歴、ハイスペック妻たちの戦場だった。
可愛い我が子のために、全てを犠牲にして挑む、驚愕のお受験物語。
2019年夏の終わり。
間山京子は憂鬱だった。
5歳の息子・隼人の手を引いて歩いているのは、車一台がようやく通ることのできる表参道ヒルズの裏通り。
白いポロシャツに折り目正しい半ズボン、ファミリアで買った木綿のツバ付き帽子の隼人。京子は独身の時プラダで買ったネイビーのワンピースを着ている。当時は背伸びして買ったものだが、34歳になった今、年相応の上品さを演出できるお気に入りだ。
2人の横をベンツがゆっくりと通り過ぎ、少し先で止まった。
隼人と似たような格好の小さな男児とその母親が降り立ち、角の建物に入っていく。入口の小さな看板にはネズミの絵とともに『グリグラ幼児教育研究所』と書かれている。
そして京子達も、吸い込まれるように、その中に足を踏み入れた。
この記事へのコメント
たかだかとはいえ、そこまで稼げてない自分が言うのもなんですが。