SPECIAL TALK Vol.73

~半導体もワインも同じものづくり。異色の二本柱で挑戦していきたい~

もらったおもちゃは即分解。少年時代からものの仕組みに興味を持つ

金丸:早速ですが、子どもの頃のお話を聞かせてください。ご出身はどちらでしょうか?

松坂:生まれも育ちも山梨県です。実家は笛吹市の一宮町というところで、明治時代からぶどう農家をしていました。

金丸:生食用ですか、それともワイン用?

松坂:どちらも生産していました。うちの周りはワイナリーばかりで、メルシャンやマンズワインをはじめ、地元のワイナリーにぶどうを供給していました。ワイン醸造権も昔から持っていたのですが、のちに売却しています。

金丸:それだけ聞くと、ワイン造りの道に入るのも必然という感じがします。子どもの頃から、将来ワインを造りたいと?

松坂:いえ、考えていませんでしたね。

金丸:では、どんなことに興味を持っていたのですか?

松坂:体を動かすのが好きでしたし、ものに興味がありました。今でこそものづくりに携わっていますが、昔はものを壊すというか、分解するのが大好きで(笑)。おもちゃをもらったら、すぐその場でばらばらにして。「もう壊したのか」と怒られるような子どもでした。

金丸:私も同じですよ。初めてもらった時計を3日かけて分解して。当然元には戻せないので、えらく怒られました(笑)。

松坂:壊したいんじゃなくて、中身がどうなっているのかを見たいという好奇心から、分解するんですよね。許してほしいものです。

金丸:本当に。表面だけ見るのではなく、中身にも興味を持つのは大切なことです。スマホアプリでゲームをするにしても、ただ遊んで終わるのではなく、その画面の向こう側がどうなっているのかに興味を持てば、世界が広がりますから。

松坂:その後、高校までは山梨で過ごし、大学進学を機に東京に出ました。就職も東京です。

金丸:最初から半導体関係に就職されたのですか?

松坂:いいえ、大手物流企業のシステムエンジニアです。大学までコンピュータとは無縁でしたが、システム関係の企画開発部門に配属されたのをきっかけにコンピュータを触ってみたところ、これが面白くて。そこからソフトだけでなく、OSやハード、仕組みそのものにも興味を持つようになりました。

金丸:ものづくりの血が騒いだんですね。

松坂:しかも、たまたま妻の実家が半導体をやっていたんですよ。

金丸:なるほど。それが塩山製作所だった。

松坂:どんなものを作っているんだろうと、見学に行ったら、「興味あるなら、うちに来ないか」と。

金丸:すごい巡り合わせですね。では、それをきっかけに転職されたのですか?

松坂:実際には少し経ってからです。妻が体調を崩し、実家に戻りたいと言ったので、「じゃあ帰ろうか」と。これまでと畑違いでしたが、品質管理における統計的手法や確率論の考え方が面白いなとも思いましたし。

金丸:工業製品において不良品をゼロにするというのは無理ですから、設計段階からそれを織り込んで考えなければいけません。そういう部分に面白さを感じるということは、つまり分析して、課題を見つけて、改良して、というプロセスが好きなんですね。

松坂:好きですね。

金丸:しかもそれって、ワイン造りにも大いに使えそうですが。

松坂:もちろん、最大限に活用しています。

金丸:職人の経験と勘ばかりに頼ってはいられませんからね。たとえば日本酒の世界も発酵を扱うのだから、もっと科学的に捉えないといけません。最近はデータやITを活用する酒蔵も増えてきましたが。

松坂:そうですね。ワインは工場のラインで造るものではないし、原料のぶどうは農作物。どうしても想定したとおりにはいかないので、いかに想定に近づけていくかが、ワイン造りの面白いところでもあります。

台湾企業の台頭により、価格競争から抜け出す決断

金丸:「塩山製作所」で社長に就任されたのはいつですか?

松坂:1998年です。私が40歳のときでした。

金丸:90年代後半というと、製造業としてはかなり厳しい時代に突入していますよね。

松坂:おっしゃるとおりで、日本の工業製品、特に電子部品は、80年代までは世界に誇れるものが数多くありました。実際、うちにも世界トップの製品がいくつもあり、世界で流通していた月産100億個のうち、3割はうちが作っていた時期もありました。

金丸:そうなんですか。ところがいまや、日本は相当なシェアを海外に持っていかれてしまいました。

松坂:なぜ日本がどんどん負けていったのか、私も散々考えてみたんです。

金丸:松坂さんはどんな結論に?

松坂:日本メーカーは、「中国に負けないように」と口では言いながら、競合として日本メーカーしか頭になかったんですよ。そして、日本企業同士で価格競争をやってしまった。

金丸:国内で不毛な価格競争に明け暮れているうちに、海外メーカーはどんどん成長していったというわけですね。

松坂:しかも、世界シェアを押さえたのは、中国ではなく、台湾だったという。

金丸:台湾がここまで成長するとは、ほとんどの人は想像していなかったでしょうね。私も以前はコンピュータの設計・開発に携わっていて、台湾には何度も足を運びました。その頃に友達になった人たちは皆、大成功を収めています。

松坂:台湾のメーカーは、特定の大手メーカーの下請けではなく、どのメーカーのものでも請け負います。半導体自体は必要なので、どこが勝とうが負けようがまったく関係なく、ものが売れ、利益が出るんです。

金丸:その代わり、世界でシェアを取るまでは、徹底した価格競争を仕掛けてきましたよね。

松坂:うちが部材費しか賄えないような値段を提示しても、台湾メーカーに負けたことがありました。「いったい加工費をどうやって捻出しているんだろう」と疑問に思うと同時に、「半導体は資本力がものを言う世界になってしまった。もはや勝負にならない」と感じ、価格競争から降りる決断をしました。

金丸:その決断は正しいと思います。

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