「篠崎って、社長なんだよ」
―え、社長!?どこかの有名企業の御曹司だったりして…♡
突然の触れ込みに、円花は心を躍らせる。
「学生時代にベンチャーを立ち上げて、今も六本木で会社を経営してます」
「すご~い!どんな会社なんですか?」
円花の期待は外れたが、それでも社長という肩書には惹かれてしまう。円花はグッと身を乗り出し、篠崎の目を見つめた。
「知育ゲームって言って、子どもの勉強とか教育に役立つゲームアプリを作っているIT企業です。昔から子ども好きで、人の成長に役立つサービスを作りたくて」
―子どもが好きだなんて、家庭的でいいかも!
この若さで社長として事業を拡大しているなんて、相当優秀な人なのだろう。「“時代の最先端を切り開く男を、密かに支える妻”というのも悪くないかもしれない」と、円花は内心ニヤリとする。
スペックが大体分かったところで気になるのが、女関係だ。そう思ったとき、タイミングよく松下が良いネタを投下してくれた。
「だけど篠崎、恋愛となると全くダメなんだよなあ。ほら、前の彼女と中国行ったときとかさ」
「ああ…。2年前に付き合っていた彼女と、現地の調査も兼ねて中国を旅行したんです。そのとき『バックパックひとつで、野宿の旅だ』って現地に着いてから話したら、激怒されて振られました」
―え、彼女との旅行なのに野宿させたってこと?
円花は理解が追い付かず、うまく反応することができない。
「まあ、試しに一晩だけですよ?僕はそういうサバイバルみたいなことが好きなので楽しかったんですけど、彼女にはあんまり理解されなくって…」
「それ、理解できる女いないだろ」
そう突っ込まれた篠崎はあっけらかんとした表情で笑っているが、特に自分がおかしなことを言っている自覚はなさそうだ。
しかし、篠崎の“なんだかおかしなところ”は、それだけにとどまらなかった。
それは飲み会の終盤、お互いに連絡先を交換していたときのこと。
差し出されたQRコードを読み取ると、篠崎のアカウントが出てきた。アイコンは湖のような場所で、篠崎がポーズをとっている写真。
その下のコメントには「住所不定(地球)」と書いてある。
―えっ、何これ。どういう意味!?
「あ、その写真はウユニ塩湖って言うボリビアの湖で撮った写真なんです。行ったのは学生時代なんだけど」
篠崎のヘンなコメントに気を取られて、アイコンの説明が全く耳に入ってこない。すると篠崎は円花のアイコンを見て、こう言った。
「円花さんは、どこかでディナーしたときの写真?」
「ああ、それはステイケーションで『フォーシーズンズ東京大手町』に泊まったときの写真なんです~♡」
「へえ。なんだか、THE丸の内OLって感じですね」
「そうそう、コイツは典型的な丸の内OLだもん。篠崎みたいに、個性とか変わった趣味とかないもんな~」
横で余計なことをいう松下を、円花はこっそり睨みつける。…そのとき、篠崎が苦笑いしていたことも知らずに。
◆
円花は日比谷線に揺られながら、これから篠崎との関係性をどうしていこうかと思案する。
かなり個性的だが、若い起業家という点と、あのルックスは評価できる。子ども好きという所もポイントは高い。
―ヘンな人だけど、こんな条件なかなかないし。一応狙っておこうかな?
そんな勘違いをきっかけに自分の人生が激変していくなんて、このときの円花は、ちっとも気付いていないのだった…。
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▶Next:11月6日 金曜更新予定
「こんな展開初めて…」早くも円花に恋の波乱が訪れる!?
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